──────…………
「空先輩、ごめんなさい。私と別れてください」
何度も頭で響く咲の声
重く心を沈ませる
嫌われた
ごめん
端的な言葉しか浮かんでこなくて、授業もろくに頭に入ってこない
もう、彼女に会えない
散々、我慢してた癖に今さら彼女に触れたくて仕方がない
こんなことになるなら、もっと早く彼女に素直に伝えていれば良かった
──────狂いそうなほど愛してる
──────そんなに可愛くなるなよ
──────俺を置いてかないで
「………保健室、行ってきます」
収集のつかない感情のまま、保健室に逃げた
養護教諭はいなくて、一つだけベッドが使用されているのか、カーテンで囲われていた
その隣のベッドに横になり、天井を仰ぐ
咲はもう、好きな奴が出来てしまったのだろうか
こんな奴にうんざりしただけ?
溜め息を吐いて、寝返りをうって気づく
隣のベッドを囲うカーテンの隙間
蜂蜜色の髪が横たわっているのを
…………全然知らない人かもしれない
けれど、心臓がうるさくてそんなことどうでもよかった
ゆっくりカーテンを開く
そこには愛しい彼女が横たわっていた
長い睫毛は伏せられていて、桜色の唇も僅かに息を漏らしているだけ
昨日ぶりに見た彼女は、疲れているように見えた
頭なんて働かず、静かに彼女のベッドに腰かける
そのまま、そっと彼女の髪に手を添えて、髪を透く
さらさらと太陽の光を浴びて光る髪
白い肌を指でなぞると、睫毛が震えた
あ、起きる
ゆっくりと開かれた瞼は、パチパチと不思議そうに俺を映すとみるみる頬が赤く染まった
「空、先輩」
「……っ」
名前を呼ばれただけでこんなにも満たされる
まだ俺に向けてそんなに可愛い顔をしてくれる
「ど、どうしてここに?具合悪いですか?」
「………うん、寝てた」
「大丈夫ですか?いつもも白いですけど、今はもっと白いですよ」
「……あんまり嬉しくないんだけど?」
離れなきゃいけないのに、彼女の頬に触れている手は止まらない
咲の深い茶色の瞳が揺れる
ゆっくりと距離が近くなる
桜色の唇が震えた時
「……………っや!!」
肩を押されて、距離は縮まることを止めた
また傷つけしまった
会っちゃいけなかった
けれど、そうではなかった
「…彼女じゃない人には簡単にするんですね」


