あのね、先輩



いつからだったろう



彼女の笑顔を目に写すことが怖くなったのは


触れることに慎重になったのは




大切にしたかった



…………ダメだ




近くにいると、咲を抱き締めたくなる


閉じ込めたくなる




そんな思いを口にすることなく


咲と距離を置いてしまった




あぁ、咲はどんな気持ちだったろう



冷たくされて

視線すら合わさない


どれだけ傷つけたんだろう





………ごめん







ある日、同じクラスの奴に呼び出されて咲と会えなくなった



ムカつく


猫なで声の女を軽くあしらいながら、何とか玄関まで来た



それでもしつこく纏わりついてくる



冷たくすると、泣かれるので軽く顔に笑顔を貼り付けながら、何とか早く帰ろうと思っていた



それなのに





「……っ、何してんの」



女はグイッと俺のブレザーを引くと、顔を近づけてきた


反射で口元を手で覆ったので、手の甲に女の汚い唇があたった


何やら言い分けを言っている女


正直何を言ってるのか、何も頭に入ってこない


咲以外の声なんて何も耳に届かない




「二度と話し掛けてくんな。視界にも入るな、吐き気がする」




キャンキャンとわめき散らかされたが、無視して手を洗いにトイレに向かう



その時



咲の蜂蜜色の髪が視界の端で揺れた気がして、急いで後を追った


けどそこには誰もいなくて



ついに、会いたすぎて、幻覚まで見えてしまったのかと考えながら男子トイレに入る




このときに、きちんと確認しておけば良かったのに