〈竜也〉


俺がどーしようもないヤツだったのは否定しない。

毎日が退屈で、明日への期待なんて何もなかった。

ただダラダラと過ごす高校生活を一変させたのは美咲。

ただの地味な、同じクラスになるまで同じ学校に通う同級生だということすら知らなかった女。

なんだったら、俺のひったくりのターゲットだった女。

ターゲットだったし、俺が加害者だとしたら美咲は被害者だった。

だから、美咲が身を守るために何をしようと俺は文句を言うつもりはない。

文句を言うつもりはないが、あいつは加害者の俺がバイクから落ちて怪我をしそうになったのを、身を挺して守るっていうお人よしだった。

捨て置いていいはずの、ましてや文句の一つも言っていいはずの被害者・美咲は、バイクから落ちた加害者の俺に向かって


「大丈夫ですか?」


って聞いたんだ。

俺は自分の耳を疑った。

でも、そのあとひょんなことから美咲を自分の下僕として身近に置くことになった。

美咲はいまだにあの時のひったくり犯が俺だと知らない。

だから、というわけではないが、美咲は理不尽な要求だっていうのに、俺の指令にバカみたいに一生懸命従った。

そんな美咲を近くで見ているうちに、


”なるほど、こいつはああいう場面でも相手のことを気遣うんだろうな”


なんて妙に納得してしまった。

納得すると同時に心配になった。

コイツはこの底なしにお人よしな部分に付け込まれて、いろんなヤツにいいようにされちまう人生なんじゃないか?

って。

そう思うと今度はたまらない気持ちになってきた。