……胸の高鳴りは最高潮!

鍵盤を遥かに超え高鳴り続ける音で耳が破裂しそうに感じた時、ホテルから出て来たヘッドライトに車内は照らされ掌がふと外された。

ハッと我に返った表情のあなたは、すぐに深く腰掛け急発進させる。


「……ごめん。あんな場所に居たら満室であぶれて外で盛ってるみたいで」


どう反応したら良いかわからずただ横に首を振り返すと、実に罰の悪い顔でチラ見して左手で私の目を隠した。


「……あったかい。……寝ちゃいそう」


「寝ていいよ。俺も癒される」


……もったいない。

もっとあなたを見つめていたい……。





「__かおりちゃん……」


あなたの呼び声に夢うつつから目を覚ますと、優しい表情で微笑むあなたに見下ろされ幸せ夢気分で微笑み返した。


「そろそろ門限だよ」


その言葉に即現実に戻され慌ててシートを戻し時計を見ると23時45分。

周囲を見渡すと近所の24時間営業スーパーの駐車場から走り出したところだった。


「ほんとに寝ちゃった……。ごめんね」


「いいって言ったじゃん。手を当てたらすぐに寝落ちしたからマジ疲れたんだなって。だから少し寝かせてあげたくて」


確かにあなたの手が心地良くて目を閉じるとすぐ寝落ちしたよう。


「ありがとう。でも信じられない、助手席で寝るなんて……」


しかもあんなドキドキしてた後に……。


「いい傾向。俺も超癒されたし。君の無防備な寝顔って最高に癒される。毎晩見れたら疲れ知らず……いや毎晩だと逆に睡眠不足になりそうでヤバい」


そう言ってニヤり口角を上げてチラ見してきた。

……毎晩だとずっと寝顔見ちゃって寝不足?


「見飽きるよ」


「絶対ない。……見てるだけで満足するわけないし。……ねぇ?」


……もしや下ネタ? ……ぽい。

またからかい眼で楽しんでる。

恥ずかしさ悟られぬよう知らん顔して前見ると、見透かすようにチラチラ見てニヤニヤしてる間に我が家に到着。

後ろ髪引かれながらシートベルトを外し、いつの間にか掛けられたジャケットを丁寧に畳む。


「今日も本当にありがとう。今度御礼させて」


「御礼なんていい……あ、今度飯でも付き合ってよ。……雑誌で大人のオシャレデート特集見てたまには洒落た店もいいなって。全然行ってないからさ」


「……うん」


嬉しいお誘いに屈託のない笑みで頷くと、あなたも弾けるように笑い車内が明るさを増したように感じられた。


「じゃあまた連絡する」


「うん、お休みなさい」


まだ一緒にいたい想いを断ち切り車を降りて小走りで運転席に回ると、窓を開け待っていてくれたあなたはハイタッチするように手を出した。

笑って右手であなたの手にタッチすると、ギュッと握られエンジン音が止まる。


「……まだ51分。もう少し遠回り出来たな」


まだ帰したくない……そう言いたげに見えるのは……私の願望?


「なんてね。体冷えるから入って」


「……アイス食べたかったな」


「……今度アイスケーキ1ホール買ってあげる」


満面の笑顔で頷くと、あなたも輝く笑顔で手を離した。


「じゃあお休み。……入るの見届けないと心配だから」


「……ありがとう。お休みなさい」


親指で玄関を差すあなたに頷き、切ない想いを断ち切って門扉の先で手を振った。

そして玄関に入るもまた顔を覗かせ最後にもう一度だけ手を振り、断腸の思いでドアを閉め鍵を掛けた。