彼は、ずっと前方を睨むように聞いていたけれど、話し終えると静かに私を見てバカにした表情で口角を上げた。


「絶対別れねーから覚悟しとけ」


その言葉にカッと怒りが湧き上がり反射的にドアを閉めると、即エンジン音が鳴り響きすぐ様走り去って行った。

……信じられない!

さっきまでの申し訳なさは跡形もなく消滅し、後悔だけが残り更に怒りが加わった。

……こんな所に独り残すなんて有り得ない!


「最っ低!!」


怒り顕に言い放った瞬間、後方での人の気配にビクッと凍り付いた。


「俺だよ」


「……藤井君?」


「ああ」


あなたの心配そうな顔を目の前にした瞬間、視界がボヤけあなたを見失ってしまった。

同時に後頭部を優しく男らしい胸に引かれ強くギュッと抱き締められた。


「……ごめん、遅くなって。……良く頑張ったね」


私は、目一杯労りを込めた手で何度も何度も優しく髪を撫でられながら、嗚咽を漏らし泣き続けた。

あなたのあたたかくも力強い腕に抱かれ安心して無我夢中で泣き続けていた。



ひとしきり泣き続け疲れ切った私は、あなたの胸に体を預けたまま大きく息を吐くと、頭上でクスり笑う声がした。


「落ち着いた? ……取り敢えず車に乗ろう」


放心状態で小さく頷き返すと、私の右肩を抱き敷地の外に向かって歩き始めた。

……頬と右肩が、発熱したように熱い。

入って来た県道の裏道に出て左折すると、Fuji Resort Hotelのロゴ入り社用車が停車していた。

……この車では、入れないよね。


「ごめんね、また迷惑掛けて」


「全然。君に何かあったらそれこそ死活問題。……純も君には危害加えないだろうけど玲ちゃんが煽る煽る。しかし尾行完璧バレてたな。……乗って待ってて」


あなたは、助手席に私を乗せるとホテルから出て来たバイクに歩み寄り短い会話を交わした。

そしてすぐに車に戻ると謎の表情で迎えた私にぬるいココアを渡してくれる。


「念の為、連れにGPS借りて尾行してもらってたんだ」


えっ!? そんな大掛かりになってたの?


「ごめんなさい! 諸費用全てお支払いするから」


「ないない! 互いに持ちつ持たれつだから気にしないで」