「うちの学校の部室棟の近くにさ、テニスコートがあるんだよ。
ボールが飛んでこないようにフェンスがしてあってさ。
ほら、中学の時もそうだったじゃん。
そこからは、男子テニス部が見えるんだよ」
朝陽は丁寧に、だけど淡々と説明を始めた。
「そこには本田がいて、いっつも女子たちがキャーキャー言ってるんだよね」
「うん」
「それって、どういう意味だと思う?」
「どういう意味って、普通に考えて、本田君に気があるってことでしょ?」
「だよね」
朝陽は自嘲気味に笑う。
「じゃあ、キャーキャー言わずに後ろの方でゴミ箱持って、ただ静かに立ってテニスコート見てるだけの女子は、どうなの?」
「え? ゴミ箱?」
「そう、ゴミ箱。
掃除当番でゴミ捨ての仕事があるじゃん。
ゴミ捨て場って、校舎からかなり離れたところにあるんだよね。
だから面倒で誰も行きたがらないんだよ。
でも、彼女は率先して行くんだよ。
そのテニスコートの前を通るために」
「女子って変わってるよね」と、朝陽はおかしそうに笑って言う。
だけど私には、朝陽が一体何の話をしているのか、よくわからなかった。
__「彼女」って、あの一目惚れの「彼女」だろうか。


