岩瀬の驚いたような、あきれているだろう顔は涙で滲んでよくみえない。 でも一歩ずつ、少しずつ岩瀬が近づいてくるのだけは分かった。 ポーチなんか投げて怒られるのだろうか。 馬鹿にされるのだろうか。 なのに、私の目の前までやってきた岩瀬は、私の右腕を掴みグイッと引き寄せた。 そして岩瀬の手が私の頭に触れる。 温かくて懐かしい、岩瀬の大きな手。 静まり返った廊下に 「俺は好きだよ」 岩瀬の優しい声が響いた。