「あんたが居なかったらねぇ。」

ああ、聞き慣れた言葉だ。
そう思いながらうずくまる高校生の僕

父は現場仕事で大した立場じゃないのか帰るといつも愚痴を言い、僕にあたる
力仕事なだけあって無駄に鍛えられた腕と中肉中背のよくいる小汚い親父
こいつは実の父じゃない。

母は水商売上がりのただのオバサン
どうせ飲みに来てた父に貢がれて再婚したのだろう。
現場仕事なだけあってそれなりの稼ぎはあっただろうし
僕が父に殴られ蹴られしているのを見て見ぬ振りをするこいつも悪人。

そしていつも母のその言葉で終わり、二人で食事に出かける。

「あんたがいなかったらねぇ。」

いつもなら居なくなれるもんなら居なくなりたいなんて思いながら拳を握りしめていた。
いつもなら。

今日の僕は違った
行き場のないこの気持ちを、居場所のないこの孤独を抱えて今日は出ていく。
そう決めていたから

ポッケにはクシャクシャに握りしめた跡がある1万円
親の財布から抜くときの顔はどんな顔をしていただろうか、罪悪感なんて微塵も感じなかった。

その一万円を持って遠くに逃げよう。少しでも、少しでも遠くに
そう決めて僕は走り出した。