「嵩寺、これ資料室に片付けといてくれねーか。」
「は、はい!わかりました!」

日誌を書いていたら教室を出るのが遅くなって、授業で使った資料を両手いっぱいに抱えている先生と鉢合わせしてしまった。

「悪い、これから会議があってな。重いから2回に分けて運べよ。」
「大丈夫です!怪力なので!」
「お、頼もしいな。」

そうは言ったものの、持ってみたら想像以上に重くて、階段に差し掛かったところで1度資料を床に下ろして休憩にした。肩を回しながらふぅ、と息を吐いて、気を取り直して運び始めようとしたとき、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。

「うわ、重そうだね、それ。資料室まで持って行けばいい?」

え、と思わず声を漏らす。顔を上げたときにはもう、資料は瀬名くんの手の中に軽々と抱えられていた。

「あ、ありがとう……でも全然1人で運べるし、大丈夫だよ?」
「そう?じゃあ半分こにしよっか。」

にこやかにそう言われれば、断る方が申し訳ないと思ってしまう。実際に渡された量は半分より全然少なかったけど、これ以上言うのもしつこい気がしたから諦めた。

「っし。あとは何か仕事とかない?大丈夫?」
「あ、うん…特にない、かな。」
「そっか、よかった。」

そう言ってはにかんだ瀬名くんがとてもかっこよくて、その笑顔が自分だけに向けられている事実に、顔に熱が集まるのを感じた。

──すき、だなぁ

「え?」
「ん?」
「いや、声に出てたけど……」
「……へっ!?」

声に出てたって、うそ、じゃあ私、今、瀬名くんに……。

「ごめんね、違うの、そうじゃなくて…いや、違わないんだけど……って、瀬名くん?」

夕日に照らされた瀬名くんの顔はさっきまでと打って変わって悲痛に歪んでいたから、彼女さんがいるのにこんなこと言われて、困っているのかなって思った。でも、なんだかそんな感じじゃないような気がして…。

「…俺、帰るから。……悪い。」

理由を聞く前に、彼は私の前からいなくなってしまった。