そして同時に、『自分たちの叶えたい目標にも近づいていたら嬉しい』、なんて淡い期待を胸に歩いていた。

 「早速、開けるわよ。」

 互いに緊張感を持ちながら、来海が扉を開けるのを待った。

「警察って呼ばなかったんだよな?」

「知らないけど、呼ばなかったの?」

「あの時、救急車呼ぶので手一杯だったから、呼んでねえぞ?」

 結果的に警察が来てないお陰で、ガサ入れ出来る事となった。

 変な物が出てきたら、だいぶテンパってしまうだろう。俺にはそんな未来が見えた。
 ガチャ。

 鍵の開いた音がした。ドアを開けて中に入る。

「何も変わってねえな……。」

「逆に変わってたら怖いわよ。それって無断で誰かが入ったって事でしょ?」

「まあ、確かにそうだな。」

 来海の話に相槌を打ちつつ、真道の家を見渡した。その限りだと、人の踏み荒らした後は確認できなかった。

 郵便受けからチラシ類が溢れているという事は、親族関係も訪れていない様子。

 その様子からは、誰の手も入っていないようだった。

 とりあえず、チラシ類だけは整理しておこう。これからも溜まっていく一方だし、これから投函する人たちが困るだろうから。

「やけに多いな。どんだけ溜め込んでんだよ、あいつは。」

 俺は真道の郵便受けに手を突っ込んだ。

 底の方にあるチラシを取り出し日付を確認すると、約一年前のものだった。恐らく、あいつの心が荒み始めた頃だろう。

「おい、ちょっと来てくれ。」

 俺は紙の仕分け中に、見覚えのある紙きれを見つけた。

「これって。あれ、だよね。」

「ああ。やっぱりあいつの元にも来てたんだな……。脅迫文が」

 同一犯というのは、手口で何となく分かっていたけど、ここまであからさまだとは思っていなかった。

 恐らく犯人は、同一人物の犯行だと勘づかれても、何ら問題ない人物によるものの可能性が高い。そんな予想が容易に想像できた。

 しかし、春原真道という人間が、赤の他人から恨みを買っているなんて話、聞いた事がなかった。

 というか悪口すら全く耳に入ってきてはいなかった。

 そんな、好感度が高いのか、影が薄いのか分からないような人間に、誰が恨みを持つのだろう。俺は不思議に思った。

「で、どうだ。日記あったか?」

 来海は、俺の質問に対して即座に首を振った。

「とりあえず、見つかるまで探すしかないか。」

「そうね。他に何か手掛かりでも見つかれば最高だけど。」

 俺は真道に対して、要らないと決めつけた物を何でも潔く捨てるイメージがあった。

 それだけ取捨選択をいとわない人間だから、目当てのものが無いという可能性も大いにあった。

「でかい段ボールね、これ。」

「あいつにしては珍しいよな。こういうの嫌いだろ。」

 俺らの目線の先には、埃まみれの段ボールが机と壁の間にぴったり収まっていた。

 一際大きな存在感で、真道の部屋に堂々と置かれていた。

「怪しいわよね。この片付いた部屋の中で一番。」

 来海はそう言うと、その段ボールから少し距離を取った。

「何してんの?」

「怖いから、距離を取ったの……。」

 これは、来海からの無言のメッセージなのだろう。俺は察知して、恐る恐る段ボールのフタを持った。

「……んじゃ、開けるぞ。」

「ええ。気を付けてよ……。」 

 元々俺は、恐怖心なんて微塵も感じていなかった。

 しかし、来海が露骨に恐怖感を出していた事で、俺にも少しずつ怖さが芽生えてきた。