僕らは運命の意味を探していた。

 捕まえようと手を伸ばしても既にその姿は無く、力ない僕の声が響くばかり。周りの四人も俯いたまま口を開かず、その場の空気に飲まれているようだった。

 分かっているつもりだったが、目の前で人が死んだ。名前すら知らない赤の他人で、誰一人として助けようとはしなかった。なぜかと問われれば、その場に立っているのがやっとだったから。他人の心配が出来る精神状態では無かった。

 そしてその事実は、僕らの前に死への恐怖を運んできた。避けられない運命なのだと告げているようだった。

 「ねえ、マー君。」

「どうした。」

 不安げな面持ちで僕の肩を掴んでいる。その手は小刻みに震えて、今にも消えてしまいそうだった。

「あの子みたいに、私達もなっちゃうのかな……。」

 僕は笑い続ける膝を隠して、彼女の手に被せて言った。

 「大丈夫だ、僕に任せて。君を絶対に現実世界に戻すから。何としても、絶対。」

 そうあきには言うが、そんな確証を持っているはずがない。一つの命が、容易に消されるようなこの世界に光なんて見えるはずも無かった。

 でも、あきだけは何が何でも助け出したい。この命に代えても目的は果たすつもりだ。

「……何で、そう言い切れるの?」

 そう下を向きながら言った。

 不安の色が濃くなっていく。手立てがない現状で希望なんて持てる筈がなかった。でも、まだ始まったばかりなのだ。

「だって、僕らはこの世界のこと何も知らないんだよ。手立て無しと決まった訳じゃ無いんだ。まだ時間もあれば人もいる。可能性を捨てるには少々早いと思うよ。」

 不確定には変わりないが、初めから死んだのも同然と考えるのは時期尚早だ。それまで足掻き倒せばいい。

 そう僕は自らを鼓舞して不安感を消し去ろうと努力していた。

「確かに。やっぱり、マー君って冷静だね。」

 彼女は笑みを覗かせた。無理矢理感は否めないが、その顔が見れただけでも安堵感を覚えた。

 どうにかして心の底から笑顔になれる世界にあきを戻したい。僕はそう思った。

 なんとなく壊れかけた雰囲気が元に戻って、僕は視線をあきから外した。すると待っていたかのように司令塔的な男子が話しかけてきた。

「お二人さんや、あのカレンダーに見覚えは?」

 僕らは司令塔の指差す方を向くと、さっきまでなかったはずの印付きカレンダーが、黒板横の掲示板らしき場所に画鋲で留めてあるのを見つけた。

「カレンダー?」

「そう。八月二十日に二重丸が付いてる。」

 そして彼は黒板を指さすと、右端の日付を見る。八月一日だった。

 と言うことは、現地時間で二十日がタイムリミットということだろう。黒板の上に真っ白な掛け時計がある。これで容易に時間が把握できるはずだ。 

「私は協力しないから。」

茶髪女子は僕らの意見が気に入らない様子で、そっぽを向いていた。

「だったら、どうするんだよ。」

「そんなの自分で決めるし。私は私の方法でこの世界から脱出するから、邪魔だけはしないでね。」

 彼女は嫌味を吐き捨てて、そのまま一度も振り返る事なく、教室から出て行ってしまった。

「……ったく。なんだよあの女、感じ悪いな。」

険悪な雰囲気が徐々に広がっていく。僕も重苦しい感情を抱いていた。

 何故僕が皆の協力が必要と言ったのか。それは至って単純な理由で、単独行動が危険な状態だから。

 慣れない土地で地理が分からない上に、何かあった後では手遅れ。いくらガラケーを所持しているからと言っても、いつも連絡できる状況下にいるとは限らない。金持ち息子のように飲み込まれれば、それこそ手の施し方がないのだ。

「仕方ない。とりあえず二手に分かれよう。」

 僕はそう提案し、僕とあき、司令塔的な男子と眼鏡女子に分かれて行動を開始した。

「何かあったら連絡してくれ。俺らも何か分かったらすぐ連絡する。んじゃ、そう言う事で。」

 そう言って彼は走り出した。眼鏡女子がついていけていない様子で少々心配になるが、何とか上手くやってくれそうな気がする。

 差し込む太陽光を背に駆け出す姿はまさに『青春』という漠然とした単語を具現化したように感じがした。

 そして後に続いて僕らも順々に灰色の小型機を持って教室を後にする。

「私たちも行こっか。流石にここにずっといるだけなのは、気がひけるからさ。」

あきはそう言って立ち上がると、僕の手を引き、携帯を取って歩き出した。

「手引っ張るなって、ちゃんと行くから。」

 呆れ顔を覗かせた僕の顔は、やがて微笑みに変わると、前にいる幼馴染みを追いかけ真実を求めて歩きだした。

 この先に待つ答えは果たして何だろう。不安と若干の高揚感で胸が一杯だった。