パチン。
鳴り響く乾いた音。
それは僕の右頬から発せられたものだった。
「今までどこで何してたの‼ 風に当たってくるって言ってから、一日姿見せないってどんな神経してんのよ‼」
紗南は赤くなった目を擦りながら、僕を全力で叱った。いつかのあきと同じ顔をしていた。
「…………これ。」
僕は紗南の声を無視した。無視をせざるを得なかった。
それは僕がどう足掻いても白旗を上げる未来が見えたからだ。
それから、僕は三枚の紙きれをポケットから取り出し紗南に見せた。
「これがどうしたの?」
僕は無言で紗南に提示し続けた。
「だから、どうしたの?」
怒りの色がだんだんと強くなっていく。でも僕にはこうする他に何もできなかった。
「……僕は、もうこの世からいなくなりたい。だから、これを使って早く脱出してよ。見た感じこれで最後っぽいからさ。」
素直に言うしか僕にはできなかった。
「こんなもの、要らないよ‼」
受け取った紗南はすぐさま後方に投げ飛ばした。開く窓から吹き込む風によって紙きれが流されていった。
「なっ…………。紙が……。」
僕は紙きれを追いかけて、足がもつれたのか、勢いよく転んでしまった。
「真道ってさ。私たちより、そんな紙きれの方が大事なんだね。」
「…………。」
凄い剣幕で怒る紗南に、僕は返す言葉も無く俯いていた。
「真道、君は一体何を考えてるの?」
紗南は、怒っている訳でも呆れている訳でもなく、恐らく純粋な問いかけをしただけだった。
「……二人に脱出してもらいたい。ただそれだけ。」
「何で、そんな考えに至ったの?」
質問攻めを続ける紗南の顔は、どこか寂しげな表情にも見えた。
「…………誰かの役に立ちたかったんだよ。」
「んじゃ、君の願いは叶いそうにないね。」
きっぱりとそう言い捨てた。
そして紗南は、同時に僕の望みをいとも簡単に捨ててしまった。そこで僕は思わず顔を上げた。
「な、なんで? 何が足りないんだよ。言ってくれよ、何でもするからさ。な、お願い……。」
言うと紗南は僕の両肩を掴むと、僕の顔を一点に見つめて言った。
一日前に出した僕の声量よりも更に大きな声で、僕の全てを否定した。
「そんなお前のエゴなんか要らねえよ‼ お前なんかいなくたって、私たちでどうにかなった。少し頭がいいからって調子乗んなよ‼」
「そんなつもりじゃ……。」
「私が、司令官が、いつどこで、こんな事をしろと頼んだ? 答えられないだろ、頼んでねえんだから。いいか、お前のやったことは全部、自分自身のためにやった事なんだよ‼」
鳴り響く乾いた音。
それは僕の右頬から発せられたものだった。
「今までどこで何してたの‼ 風に当たってくるって言ってから、一日姿見せないってどんな神経してんのよ‼」
紗南は赤くなった目を擦りながら、僕を全力で叱った。いつかのあきと同じ顔をしていた。
「…………これ。」
僕は紗南の声を無視した。無視をせざるを得なかった。
それは僕がどう足掻いても白旗を上げる未来が見えたからだ。
それから、僕は三枚の紙きれをポケットから取り出し紗南に見せた。
「これがどうしたの?」
僕は無言で紗南に提示し続けた。
「だから、どうしたの?」
怒りの色がだんだんと強くなっていく。でも僕にはこうする他に何もできなかった。
「……僕は、もうこの世からいなくなりたい。だから、これを使って早く脱出してよ。見た感じこれで最後っぽいからさ。」
素直に言うしか僕にはできなかった。
「こんなもの、要らないよ‼」
受け取った紗南はすぐさま後方に投げ飛ばした。開く窓から吹き込む風によって紙きれが流されていった。
「なっ…………。紙が……。」
僕は紙きれを追いかけて、足がもつれたのか、勢いよく転んでしまった。
「真道ってさ。私たちより、そんな紙きれの方が大事なんだね。」
「…………。」
凄い剣幕で怒る紗南に、僕は返す言葉も無く俯いていた。
「真道、君は一体何を考えてるの?」
紗南は、怒っている訳でも呆れている訳でもなく、恐らく純粋な問いかけをしただけだった。
「……二人に脱出してもらいたい。ただそれだけ。」
「何で、そんな考えに至ったの?」
質問攻めを続ける紗南の顔は、どこか寂しげな表情にも見えた。
「…………誰かの役に立ちたかったんだよ。」
「んじゃ、君の願いは叶いそうにないね。」
きっぱりとそう言い捨てた。
そして紗南は、同時に僕の望みをいとも簡単に捨ててしまった。そこで僕は思わず顔を上げた。
「な、なんで? 何が足りないんだよ。言ってくれよ、何でもするからさ。な、お願い……。」
言うと紗南は僕の両肩を掴むと、僕の顔を一点に見つめて言った。
一日前に出した僕の声量よりも更に大きな声で、僕の全てを否定した。
「そんなお前のエゴなんか要らねえよ‼ お前なんかいなくたって、私たちでどうにかなった。少し頭がいいからって調子乗んなよ‼」
「そんなつもりじゃ……。」
「私が、司令官が、いつどこで、こんな事をしろと頼んだ? 答えられないだろ、頼んでねえんだから。いいか、お前のやったことは全部、自分自身のためにやった事なんだよ‼」
