翌日、十六日目の朝。
「今日も朝の会議始めるぞ。」
あんな事のあった翌日だから、皆の顔には影が掛かっていた。重苦しい雰囲気の中で始まった会議は、まるでお通夜のようだった。
「どうする、今日……。」
昨日まで全開だった紗南の溌剌さは、もう見る影も無く消え去っていた。
やはり、全員に『メンバーの死』という出来事が、重くのしかかっているのだろう。
「司令官は、何か考えているのか?」
僕の問いに、ゆっくりと首を振った司令官は、何も飾らず正直に答えた。
「何も考えてないぞ。……というか、考えられなかったんだけどな。」
「友花ちゃん……。なんであんな事に……。」
司令官の後に発言したあきだったが、内容に何の脈略も無かった。
やはりまだ引きずっているようで、鼻を啜る音がしきりに聞こえた。
僕は、右隣のあきにだけ聞こえる音量で囁いた。
「……おい、あき。それは言わない約束だろ。」
昨日の件で一番ダメージを食らったのは、間違いなくあきだろう。
夜の定例会議の後、解散していつものように就寝しようとしても、あきの溢れ出る思いは留まるところを知らなかったらしい。
具体的な時間は把握していないけれど、長い間、僕はあきの背中を擦り続けた。
「あんな奴の事忘れてさ、前に進もうぜ、な。」
僕は司令官の言葉に、取り返しのつかなくなる未来が見えた。
「っ……‼」
ガタンッ。
四人囲んで座る椅子の一つが勢いよく倒れる音が部屋中に響いた。
「……なんて事言うのよ! あの子だって、あんまり話してくれなかったけどさ、仲間だったんだから……!」
「知ってるわ! あいつだって、俺らにいろいろ協力してくれてたよ。でもよ、あいつは昨日裏切ったんだぞ! どんな理由であれ、仲間ならなおさらあってはならない、禁忌だろ。」
「二人とも、落ち着いてって…………。」
「落ち着けるかよ‼ あいつが言ったことは全部、私利私欲に走ったあいつ自身の我が儘なんだ! それのせいで危うく自分達の人生が終わりかけたんだぞ。黙っていられるかよ‼」
珍しく司令官が興奮した様相を見せている。顔はトマトのように赤くなり、息も上がっていた。
「でも、そう思わせたのは、皆が友花ちゃんの発言できるような環境を、作ってあげられなかったからでしょ。それをあの子のせいにするのは違うよ。」
あきの表情は、段々と深夜時間帯に僕が、ずっと見ていた顔に戻りつつあった。
このままは流石にまずい。僕はそう思った。
「違うだろ。あいつに言う勇気が無かったんだ! それを全部真道のせいにした。それはあいつの責任だろ。」
「ううん。あの子はそんな子じゃない。だって……。」
お互いが席を立ち、身を乗り出すような形で、平行線の討論を続けていた。
僕もそろそろ聞いているのが限界だった。
精神的な余裕が無いが故の、感情のぶつけ合いに、何の生産性も無い。
話を遮ってでも止めようと、手を机に手を付いた瞬間、対角線上に座っていた紗南が、我慢の限界を迎えた。
「そろそろ、黙れって‼」
紗南は大声を上げた。
二人をどこか牽制するような形相で、この醜い争いを終わらせた。
「いいか二人とも。今更とやかく言ったって、あいつはもう戻ってはこない。友花が裏切ったのも、言いにくい環境を作った事も、全部過去の話。いま私たちは四人の世界を生きている。過去を振り返っても変わる事なんて何一つある訳ない。」
言い争った二人は互いに席で丸くなり、素直に紗南の言葉に耳を傾けていた。
「今日も朝の会議始めるぞ。」
あんな事のあった翌日だから、皆の顔には影が掛かっていた。重苦しい雰囲気の中で始まった会議は、まるでお通夜のようだった。
「どうする、今日……。」
昨日まで全開だった紗南の溌剌さは、もう見る影も無く消え去っていた。
やはり、全員に『メンバーの死』という出来事が、重くのしかかっているのだろう。
「司令官は、何か考えているのか?」
僕の問いに、ゆっくりと首を振った司令官は、何も飾らず正直に答えた。
「何も考えてないぞ。……というか、考えられなかったんだけどな。」
「友花ちゃん……。なんであんな事に……。」
司令官の後に発言したあきだったが、内容に何の脈略も無かった。
やはりまだ引きずっているようで、鼻を啜る音がしきりに聞こえた。
僕は、右隣のあきにだけ聞こえる音量で囁いた。
「……おい、あき。それは言わない約束だろ。」
昨日の件で一番ダメージを食らったのは、間違いなくあきだろう。
夜の定例会議の後、解散していつものように就寝しようとしても、あきの溢れ出る思いは留まるところを知らなかったらしい。
具体的な時間は把握していないけれど、長い間、僕はあきの背中を擦り続けた。
「あんな奴の事忘れてさ、前に進もうぜ、な。」
僕は司令官の言葉に、取り返しのつかなくなる未来が見えた。
「っ……‼」
ガタンッ。
四人囲んで座る椅子の一つが勢いよく倒れる音が部屋中に響いた。
「……なんて事言うのよ! あの子だって、あんまり話してくれなかったけどさ、仲間だったんだから……!」
「知ってるわ! あいつだって、俺らにいろいろ協力してくれてたよ。でもよ、あいつは昨日裏切ったんだぞ! どんな理由であれ、仲間ならなおさらあってはならない、禁忌だろ。」
「二人とも、落ち着いてって…………。」
「落ち着けるかよ‼ あいつが言ったことは全部、私利私欲に走ったあいつ自身の我が儘なんだ! それのせいで危うく自分達の人生が終わりかけたんだぞ。黙っていられるかよ‼」
珍しく司令官が興奮した様相を見せている。顔はトマトのように赤くなり、息も上がっていた。
「でも、そう思わせたのは、皆が友花ちゃんの発言できるような環境を、作ってあげられなかったからでしょ。それをあの子のせいにするのは違うよ。」
あきの表情は、段々と深夜時間帯に僕が、ずっと見ていた顔に戻りつつあった。
このままは流石にまずい。僕はそう思った。
「違うだろ。あいつに言う勇気が無かったんだ! それを全部真道のせいにした。それはあいつの責任だろ。」
「ううん。あの子はそんな子じゃない。だって……。」
お互いが席を立ち、身を乗り出すような形で、平行線の討論を続けていた。
僕もそろそろ聞いているのが限界だった。
精神的な余裕が無いが故の、感情のぶつけ合いに、何の生産性も無い。
話を遮ってでも止めようと、手を机に手を付いた瞬間、対角線上に座っていた紗南が、我慢の限界を迎えた。
「そろそろ、黙れって‼」
紗南は大声を上げた。
二人をどこか牽制するような形相で、この醜い争いを終わらせた。
「いいか二人とも。今更とやかく言ったって、あいつはもう戻ってはこない。友花が裏切ったのも、言いにくい環境を作った事も、全部過去の話。いま私たちは四人の世界を生きている。過去を振り返っても変わる事なんて何一つある訳ない。」
言い争った二人は互いに席で丸くなり、素直に紗南の言葉に耳を傾けていた。
