「こんな所でどうしたの。」

 背後から幼馴染の声が聞こえた。

 五段ある階段の丁度真ん中に座る僕は、一向に振り返る事なく、彼女の問いかけに答えた。

「夜空を眺めてた。何かひらめくかもと思ってな。」

 澄み渡る空。燦然たる星々。何もかもが現実世界と変わらない。

 しかしこれは狂った人間の創造物。

 満月も散りばめられた大小様々な星々も全てがゲームマスターによって生み出されたもの。

 感動しないように抵抗する僕を嘲笑うかのように、心地よく吹くそよ風が趣深さを運んできた。

「昼間にさ、言ってくれたこと……。嬉しかった……。」

 昼間に言ったこと? あー、あれか。でも、何で嬉しいんだろう?

「もう……鈍感なんだから。君は。」

 あきは、フグのように顔を膨らませて、僕を叩いた。

 あんまり記憶はハッキリしてないけれど、恐らく、沢山の思い出が現実の僕の心に溜まっているはずだ。
 
 だって、こんな他愛もない時間でさえも楽しく過ごせてしまうのだから。そんな僕らに、宝物が少ないはずがない。

 いつからの知り合いかは分からない。でも長年堆積した記憶はもう換算不可能な次元にまで到達しているのだろう。僕にはその確信があった。