僕らは運命の意味を探していた。

 しかし一向に現れてはくれなかった。

 来海のように、ずっと寝ていた訳でもなくて、考え事をして頭を使ったり、遊んで体を動かしたりで、疲れが見えても何ら不思議ではない。

 しかし僕の考えとは裏腹に、眠気が訪れることはなかった。

 次第に眠れないでいる自分に腹が立ってきた。俺は一旦寝ることを諦めて、ベッドから起き上がった。

 そして静寂に包まれた廊下を一人歩いて行った。

「隼人じゃない。どうしたのよ、こんな時間に。」

「こっちのセリフだって。まあ、寝れなくて来ただけだよ。」

「私もよ。昼間寝ちゃったから、目が冴えちゃっててね。」

 困ったように笑う来海を見て、俺は少し可愛いなと思った。

 来海は恥ずかしい事だと認識しているのか、少し顔が赤い。

 別に眠れないなんて普通の事なのに、一体どうしたのだろう。俺には来海の気持ちが理解できなかった。

「一好君から聞いたけど、隼人、あの炎天下の中、一時間も外にいたんだってね。」

 まあな、と俺は適当な相槌を打った。

「あそこの景色、そんなに凄かったの? 私ずっと寝てたから分からないのよね。」

 来海は、困ったように笑いながら言った。

 確かに俺が屋内に入って、まず目に飛び込んで来たのは、壁に寄りかかりながら寝息を立てる来海の姿だった。

「一時間、ずっと眺めるだけの価値はあると思うぞ。」

 僕は断言した。

 あの感覚、あの感情。それを感じられるのは行った本人にしか分からない。

 正直、来海にも見てほしかった。そして味わってほしかった。

「いつかまた行って、それは見たいと思うんだけどさ、隼人はそこに何を感じたの?」

 来海は純粋な目で質問してきた。

 俺は思った。見た人それぞれが、異なる感情を持ち、その光景に別々の捉え方をすると。

 十人十色で、あの高台から景色を眺めた人全員が、全く違う意見を持つだろう。

「俺は、この世界の理不尽を、そこに感じた。」

 俺は景色だけではなく、資料館や背景にあった事を含めて、そう感じていた。

 いくら自分たちの気持ちが強くたって、どうにもならない事は必ずある。

 それがあの負の遺産が俺らに発信するメッセージだと、俺は思った。

 漫画やアニメなどだったら、スポーツ系で『努力すれば結果は付いてくる』とか、母子家庭でお金も無くバイトをしながら睡眠時間を削って、第一志望に合格する。

 そんなサクセスストーリーが当たり前に起こっていた。

 でも実際は違った。

 ダムが建設されないように努力した人たちがいる。金という絶望的な力に屈せず、諦めなかった人たちがいる。

 それでも彼らは勝てなかった。

 神様がそんな人たちを見放した。

 サクセスストーリーでは絶対に負けるはずのない人々を、現実は敗者にした。

 いかに努力しても埋まらない溝という、現実的なものを見せつけた。

 俺はこれを理不尽だと思った。

 俺たちは、生まれた時からスタートラインは決まっていて、ある程度のゴールも決まっている。

 作り物語のような、抗って、理不尽をはねのけられる人は、ごく稀に存在するが、一握りしかいない。

 だからこそ物語として成立するのだ。