しかし、ゲームマスターはなぜか高笑いを始めた。

「脱出の方法? なんだそれ。そんなもの、はなからないぞ。」

 一岡は滑稽な物を見るような目で、僕らを見た。

「てことは、友花が言ってたのって。」
「ああ。私が、友花君に言ったんだよ。今でも忘れられないね、あの時の友花君の顔。それから皆が絶望に落とされる顔が、堪らないよ。」

 なるほど。

 僕が屋上に乗り込んだ時の余裕の笑みって、そう言う事だったのか。

 僕は、今になって気づいた自分に苛立ちを覚えた。

「ああ、言ってなかったね。あき君をここに連れてきた理由。……それはね、真道君、君を消すためだよ。」

 一岡の言葉を聞いて、僕は頭に血が上っていく感覚を覚えた。

 右手は怒りで自然と握りこぶしなり、目もカッと見開いた感じがした。

「君が一番の厄介人だったからね。早く消すため…………。」

 バン。

 僕は、一岡の右頬を渾身の力で殴り飛ばした。

「な、何を……。」

「人の命を何だと思ってるんだ‼ お前がやった事は紛れも無い殺人だ。関係ない人を巻き込むなよ‼」

 涙が溢れるのを必死に堪えながら、一岡の上に馬乗りになって何度も顔を殴った。

「どんな過去があっても、どんな痛みを抱えていても、殺したら、殺したやつが悪くなるんだよ……。」

 まして、あきは誰の恨みも買わずに命を落とした。言うならば、一番の被害者だ。

「お前はもうただのいじめられた惨めな人間じゃない。……三人に儚い命を奪った殺人犯だ。」

 僕は本音を言った。

 もう僕には同情心の欠片も無かった。

 どんな角度から見ても無実だと理解できるのにも関わらず、自分の計画に利用するために、一人の命を奪い去った。

 その罪は、『殺人罪』よりも重罪だ。

 僕は殴り手を止めて立ち上がった。

 殴られた後の一岡の顔は、あざと打撲の腫れで顔の原型を留めていなかった。

「……何で私ばかりが、こんな目に遭わないといけないんだ‼ いじめられて、親から見放されて、悩んで苦しんだ私をなぜ、天までもが見捨てたんだ。私が何か悪い事でもしたのか? 現実で誰かを傷つけるような事をしたのか? 私が運命から目の敵にされる理由は何なんだよ‼」

 彼の心の叫びだったと思う。

 苦境に立たされた間、彼は自分の運命を幾度となく嘆いたに違いない。

 どうして自分ばかりがこんな目に遭うのか。そんな事ばかりを何年間も考え続け一生を遂げた、悲劇の登場人物そのものだった。

 しかし僕は、そんな彼に全く同情出来なかった。