僕らは運命の意味を探していた。

校舎にはあいつらの姿が見えないから、僕らはここから調べることにした。灯台下暗しなんて言葉もあるくらい、身体に近い場所から調べる事は重要な事。誰もやらないなんて勿体ない。僕はそんな心持ちでいた。

「どう? 何かあった?」

 一階昇降口横の資料室を漁っている最中、あきは僕の方を振り向いて問いかけた。

「……いいや、何も無さそう。」

 直射日光の影響で、日焼けした紙が山のように出てきた。特段取り上げるような内容の物は出てこなかった。しかし調べるべき部屋は未だ沢山残っている。僕には休憩している暇はなかった。

 二部屋目。内装には特に差はなく、殺風景な景色が広がっていた。

「マー君、ほんとに校舎内に、手がかりがあるのかな?」

 僕は、日焼けで色の変わった段ボールを漁りながら、あきの話を聞いた。彼女の疑いは未だに晴れず、モヤモヤした物を抱えたまま捜索している、そう僕には見えた。

 それでも僕には確固たる自信があった。

「ある、絶対に。何かしらの痕跡がどこかに残っているはず。」

「何でそんな事、言い切れるの?」

「ここはあいつの世界。何だってありなんだ。現実世界では有り得ないような事だって、人為的に起こせる。」

 ここはゲームマスターが望んだ事は全て実現する場所。あらゆる欲求を満たしてくれる、極上のスイートルーム。この世界ではなんだってありなのだ。

「でもそれと何の関係が……。」

「普通に考えてみろ。こんな廃校にこれだけの資料がある時点で、普通じゃないんだ。これはあいつが作り出した、恐らくヒント。これを生かすも殺すも、僕ら次第。だったら、生かす方がいいんじゃないか。」

 僕は得意げに笑って見せた。

 まあ、冷たい目線が視界に入ったのは世の中の道理ってやつだ。

 この関係性は特別なものだと、僕は自負していた。心の中身をさらけ出せる心地よさは、何よりも抱いていたいものだった。

「はあ……。キメ顔はともかく、言ってることは正しいかもね。」

 僕の発言の意図を汲み取ってくれたのならそれで良かった。あとは必死こいて見つけ出すのみである。

 もう日暮れが近い。陽も落ち始め、色もオレンジっぽくなってきた。

 始まって数時間、未だ携帯に着信履歴も無ければ、自分たちの手柄もない。この一日が無駄に消費されてしまうのは何としても避けたいが、何しろ全く見つからなかった。

 どうしてなんだ、何故見つからない。これだけ資料室を回ってるっていうのに、なぜ・・・・・・。

「一回休憩しようよ。」

「んなことしてる暇……。」

 僕は少しむっとした。

「ねえ、マー君。」

 彼女は声色を落とし冷静な面持ちで僕に問いかけた。

「私のためにありがとう。でも、始めからそんな調子じゃ、この先持たないんじゃない?」

 彼女は立ち上がり、僕の前に来ると、右手を肩に乗せて真っ直ぐ僕の目を見て、なだめるように穏やかな口調で言った。まるで思春期の母と息子の会話のようだった。

「ああ、そうだな。ちょっと休もっか。」

 僕には、あきが幼馴染であること以外、何も記憶がなかった。今まで現実世界でどんな出来事があって、友達に誰がいて、家族がどんな人で。そんな当たり前の知識が全く無い。

 僕は寂しい気持ちになっていた。

 もしかすると、それが一種の焦燥感を生み出していたのかもしれない。僕は反省するばかりだった。

 そうして僕らは三つの資料室を残して基地へと戻っていく。