唯織の言うとおり、私には唯織に何かを言う権利なんてない。
私は唯織の彼女でもなんでもない、ただの幼馴染みなんだから。
心の中で浮かんでは消える思いに葛藤する私をよそに、唯織は私の後ろに視線を向け、片手をあげた。
振り向けば、東雲さんがこちらに歩いてくるところだった。
東雲さんはサラサラの長い髪をたなびかせ、にこりと笑顔をみせる。
ふんわりとコロンの香りが鼻をかすめた。
「いっちゃん、帰ろ」
───いっちゃん。
呼び方に引っ掛かって首をかしげるも、東雲さんは私のようすに気付かなかったのか、容赦なく唯織の腕に手を回した。
「ちょ…っ!?」
思わず声をあげると、東雲さんの顔が曇った。
「……何?」
大きな目に見据えられて、ゴクリと唾を呑む。
「あ、いや、ごめんなさい」
謝罪を口にして後ずさる。
絡められた腕に視線を遣る。
───ふりほどいたり、しないんだ。
受け入れている唯織のようすに、ますます胸が痛んで、居たたまれなくて。
逃げ帰るように、その場を後にした。