「え」


俯いていた顔をあげると、唯織がこちらに来るところだった。


私の前まで来て止まると、真っ直ぐにこちらを見つめてくる。


走ってきたのか、肩が上下に揺れ、息があがっている。


「唯織……」


呟いたあと、ガトーショコラの存在を思い出して手で隠す。


けれど、それに気付いた唯織が「それ何?」と声をあげた。


「これは……っ。なんでもない」


実は唯織に渡すために作った、だなんて言えない。