「…え」



突然の誘いに、息が止まりそうになる。


脳内で何度もその言葉を繰り返し、ゆっくりと咀嚼する。


一緒に帰らね?


聞き間違いでなければ、唯織はたしかにこう言った。


一緒に下校するなんて、私にとっては夢のような時間だ。


神様がくれた、千載一遇のチャンスかもしれない。


……だけど。



「東雲さんは?一緒に帰るんじゃないの?」



唯織の横には、東雲さんの姿はない。


私の問いに、唯織は首を横に振る。



「今日は家の用事だって。だから、俺1人」


「そう、なんだ」


「そ」


私は、軽く返す唯織に笑みを見せ、彼の横腹のあたりを小突く。



「だとしても、ダメじゃん。彼女がいるんだったら、他の女と帰っちゃダメだよ」


"女"という部分を強調させて言う。


本当はこんなこと言いたくないけど、彼は鈍感だから仕方がない。


変な噂がたってもいけないから、自分の気持ちを押し殺しての、私にとって最大限の配慮だった。


……それなのに。


「問題ない」

「え」