プロローグ
◇◇◇
「───…あ、雪」
ほうっと吐いた白い息が、冷たい空気に溶けていく。
おもむろに呟いて、かじかんだ手を空に向ける。
ポケットから出した指先に冷たい風が吹いて、より冷たさを増した指先を見つめる。
「おい、転ぶぞ。自分がドジなこと忘れたのか?」
───ふと隣から聞こえてきた低い声に、む、と眉を寄せた。
なんだよ、馬鹿にしちゃってさ。
「大丈夫だし!高校生なんだから……うわっ」
言い返した瞬間、足が何かに引っ掛かり体が宙に浮いた。
目の前に地面が迫ってくるのを見ながら、どうしようもなくただ、やってくるだろう痛みに備える。
でも、痛みよりもさきにやって来たのは、誰かに受けとめられる感覚。
ゆっくりと目を開けると、隣にいたはずの幼馴染み───唯織(いおり)に支えられていた。