「.......彗、最近星奈くんといい感じだね。」

「え.......?いっいや、別にいい感じとかそういうのじゃ.......確かに前よりは仲良くなった、と思う、けど」


放課後、なずなと2人で帰っている途中急に話を振られて、動揺しながらぎこちなく答えた。

さっきまで授業の話をしていたのに、あまりにも話題の変え方が突然すぎるものだから一瞬何を聞かれたのか分からなかった。


「ていうかなんで突然その話?」

「今日の朝見てて思ってさ〜、もしかしてついに彗も星奈くんのこと好きになっちゃったのかなーって」

「なっ.......好きってそんな、星奈くんはどっちかっていうと友達って感じだし。それに、今の私に恋愛してる暇なんか.......」



「でも彗、最近星奈くんの話ばっかしてる。」



「.......え?」


なずなのその言葉に、思わず耳を疑った。

.......そんなわけ。

全くもって自覚はないし、そんなつもりもない。


「いつも「今日は星奈くんが」とか「星奈くんは」とか、帰り道楽しそうに話してるじゃん。自覚なくても無意識に気になり始めてるんだよきっと」

「.......ほんとに?私が?」

「うん。ほら、音楽室でのことがあったからさ、それで彗の気持ちが動いたんじゃないのかなって私は思ってたんだけど.......違う?」


確かにあの日から星奈くんとの距離は縮まったし、彼のこともっと知りたいって思うようにもなった。

けれど、それはあくまで“恋”とは違う感情だ。

どれだけ毎日が楽しくて幸せで溢れていても、今置かれている現状は変わらない。

私に恋愛をする暇なんかないことなんて、私が一番分かってる。


「.......違うよ。それに、そんなちょっとのできごとで恋になんか落ちないでしょ」


そう吐き捨てると、隣を歩いていたなずなは私の前に出て歩みを止め、真っ直ぐにその瞳を私へ向けた。


「そんなことない。心が動く度合いなんて人それぞれだし、ほんの些細なことで気持ちって動かされるものなんだよ。それに、彗は絶対星奈くんの言葉とか行動に少なからず動かされてる。親友だもん、私には分かる。」

「なずな.......」


よく『自分のことは自分が一番分かってる』なんて言うけど、そんなことないと思った。

いつもそばにいる人は、時に自分の知らない自分でさえ知っていたりする。



なずなはいつも、私にとても大切なことを教えてくれるんだ。



「.......それにね、人ってほんの些細なことで恋に落ちちゃうんだよ。」




私が恋に気づいた____いや、気付かされた瞬間だった。