___お母さんが中一で亡くなって、お父さんは私が不自由なく暮らせるようにって仕事を増やしたせいで、家に帰ってくる日が少なくなった。

そうすればもちろん私は家で1人。

掃除、洗濯、お金の管理、学校、勉強。毎日やることが多くて自分の時間なんてほとんどない。

テレビだって朝ニュースをつけて流し見するだけだし、ご飯の時間は疲れすぎててテレビを見る気になんてならなかった。


大丈夫、大丈夫。

私が辛いこと我慢すればいいだけ。

きっと今が苦しいだけだから。

今は必死に勉強して、将来私がお父さんを支えられるくらいにならなきゃ。

ただでさえ学費や通学費で迷惑かけてるのに。

私ばかり楽して生きるなんて、そんなの自分が許せない。


.......でも、本当のことを言うなら、

友達と遊びたい。

本を読みたい。

ゲームをしてみたい。


お父さんとお母さんと一緒に、ご飯が食べたかった。


でも、だめなんだ。

お母さんはもういなくて、私はひとりぼっちで____


「.......桜木さん、俺そばにいるから」

「っ.......ほし、な、くん.......?」


小さく耳元で聞こえた声。その瞬間、柔軟剤の香りがふわりと鼻をくすぐって、鈍い頭で星奈くんに抱きしめられたことを後から理解した。

星奈くんはしばらく私を抱きしめたまま、「大丈夫だよ」と繰り返し繰り返し呟いてくれて。


その優しさにまた涙が溢れて、私は抱きしめられながら日が暮れるまで泣いていた。