「.......すごいね」

「..........え?」

「お母さん、亡くなってて寂しいはずなのに全然表に出さないし、毎日笑顔で楽しそうにしてて.......桜木さんはすごいよ」


.......たった数週間しか一緒に過ごしてないのに、そんなこと分かるわけない。

私はすごくなんかない。自分でも分かりきってることなのに、目の前で正反対のことを言われて、なぜだか少し泣きそうになった。


多分、ほんとにちょっとだけど、「嬉しい」って思ったんだ。


「っ.......でも、私ほんっとにダメで.......お父さんに迷惑かけてばっかだし、勉強だって家の事だって全部ちゃんとしなきゃいけないのになんにもできなくて。お父さんはいつも頑張ってるのに.......だから、全然すごくない。」


あー、最低だ私。

星奈くんは私のこと思って言ってくれているのに、自分の考えを否定されるといつも素直になれずに反論してしまう。


.......その度に、素直になれない不器用な自分がすごくすごく嫌になるんだ。


「頑張ってる頑張ってないは人と比べるものじゃないんじゃないかな。俺からしたら桜木さんは十分頑張ってるし、すごいと思う。」

「っだから、頑張ってないしすごくもないんだってば。もっともっとできるようにならなきゃ迷惑かけるし、これくらい我慢しなきゃ___」

「桜木さん。」

「っ、」

「桜木さん、我慢なんてしなくていいよ。.......頑張らなくても、いいんだよ。」


ふと、暖かい春の風が頬を撫でて私たちの前を通り過ぎる。

その心地良さと星奈くんの優しい声に、何かがプツンと切れた気がした。


「〜っふ、ぅ.......ひぐっ、うぁぁ.......っ」


クラスメイトの前で子どもみたいに泣きじゃくるなんて、絶対おかしい。

それでも、今はどうしたって涙が止まらなくて、とめどなく溢れてくる雫が次々に鍵盤の上に落ちていって、その隙間に吸い込まれていった。