イヅナもケレトに住んでいる妖の伝説にわくわくしながら、薄い紫の巻物を広げてみる。すると、その巻物の中身は真っ黒の液体で塗り潰されており、ほとんど読むことができない状態になっていた。イヅナがポカンとしていると、ハナエが巻物を見て「ああ」と呟く。

「その巻物は、前に近所に住む子どもが遊びに来た時に墨汁をひっくり返されてしまって……。でもどんな内容かは覚えていますよ」

「どんな内容だったんですか?」

「妖と人間の恋のお話です」

「恋!?」

予想外の中身に、イヅナだけでなくツヤたちも驚く。そんな様子にハナエはクスリと笑ってから、巻物の中身を話す。


今から五百年前、この村にフジという名の美しい娘がいた。

フジはとても美しい少女だったが、幼い頃に親を亡くし、とある家の使用人としてこき使われていた。

そんなある日、フジは主人に無茶を言われ、隣町まで買い物に行かされた。隣町へ行くには険しい山道を通らなくてはならない。先日降った雨により、道は滑りやすくなっていた。