明日が終わる、その時まで【完】




「でも、薫さんは自死じゃなかった」

「……ああ。そうだ」


佳代子さんのつぶやきに、お父さんが深く頷く。


「薫さんの存在や思い出を記憶から消したいと思っていた理由がそれだったなら、もうその必要はないってことよね?」

「そういうことになるな」




「じゃあ私たちに教えて? 薫さんがどんな人だったのか、どんなことがあったのか。笑えること、笑えないこと、良い思い出から苦い思い出も、全部。あなたたちの記憶に存在する薫さんを私にも紹介してほしい」




佳代子さんはお父さんと柴田を順番に見つめる。

すると、唐突に「あの」という遠慮がちな声がしたかと思ったら、


「嫌じゃないんですか?」


その声は私の隣に座る福沢くんのものだった。

そしてさらに言葉を続ける。



「今の旦那さんの前の奥さんの話を聞いて、おばさんは嫌じゃないんですか?」



福沢くんらしいピュアすぎるストレートな質問だけど、でも福沢くんの言う通り、亡くなっているとはいえ自分の愛している人の愛した人の話を聞くのは嫌ではないのだろうか。


佳代子さんは福沢くんに柔らかな眼差しを向ける。

温かくて、優しくて、強い、お母さんの目だ。



「嫌じゃないよ。強がりでもなんでもなく、嫌じゃない。むしろ、聞きたい。私は、知りたいの。この人が愛した薫さんのことを。この人が愛した薫さんも、大吾くんも含めてこの人だから。この人の過去も、思い出も全部、愛したいの」



「ヒューヒュー! あっついねー!」

「三郎、お前空気読め」


迷いのない堂々とした佳代子さんの姿を、Aが茶化して、すぐにBが制する。

どうでもいいけど、Aは三郎というらしい。



「愛ですね」


佳代子さんの告白に、感激した様子の福沢くん。

その福沢くんの前に座るお父さんは照れくさそうに頬をぽりぽりとかいていた。