神楽綉は、私の婚約者だった人。


婚約が決まったのは、私と彼が3歳だったとき。


当時はまだ婚約って言葉を理解しきれてなくて、お父様とお母様のように一生を共に生きる相手だということくらいしかわかってなかった。


歳を重ねるうちに、彼との仲はどんどん深まっていったと思う。


お母様を亡くして悲しみに暮れていた私を、ずっと傍で励ましてくれたのも彼だった。




___そして私は、綉くんに惹かれていった。




お母様が亡くなってからも、綉くんに見合う婚約者でいようと頑張った。




勉強も、礼儀作法も、身だしなみも。




令嬢として、綉くんの婚約者として、相応しいように。




けれど、そんな努力は儚く簡単に散った。




会社を追われ、地位を追われ、家を追われ。
没落一家のひとつとなった我が家。





没落した家の人間が、日本経済のトップを司ると言っても過言ではない神楽家の……、綉くんの婚約者だなんて、可笑しい。