キーンコーンカーンコーン


あ、予鈴だ……。



急に鳴り響いた予鈴に驚いたのは、私だけじゃなかったらしい。



彼もだったみたいで、背中にまわっていた力が緩んだ。



……今しかない。




精一杯の力で押し退けて、メガネとウィッグを手にその場から逃げ出した。



彼の「おい、彩実!」なんて呼ぶ声には気付かないふりをして。




2階分くらい降りたところにあったトイレに駆け込む。幸い人はいなかった。




ウィッグとメガネをつけ直せば、完成。塚野彩。



なのに……この姿でも、篠宮彩実だってわかってくれた。



なんでわかっちゃうんだろう……彼、神楽(かぐら)(しゅう)は。