『お願いだから側にいて』~寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い~

「それにしても環、その格好どうにかならないか?」

俺と同じく夜勤明けで化粧っ気もなく髪も後ろに一本結びにしただけの姿に、つい説教じみた口調になる。

「何でよ、誰も見ていなんでしょ」
「しかし・・・」
そんなに素材が悪いわけではないんだから、もう少し気を遣えばいいのに。

「大丈夫よ、患者さんの前に出る時には白衣を着るから。そうすれば平気よ」
「それはそうだが、お前が着ているそのセーターって皆川先生のだろ?」

さすがに旦那の服を着て仕事に来るっておかしい気がする。

「いいじゃない、言わなきゃわからないわよ。それに、事情があるの」

え?

俺は環の頭からつま先までを改めて見直した。
靴はかかとのないフラットなシューズ。
ズボンは、デニムだろうか?随分ゆったりしている。
普段、動きやすさを重視してすっきりした服を選ぶ環にはめっずらしいチョイスだ。
そして、セーターは少し前に皆川先生が着ていたもの。
やはり大きめで環のお尻のあたりまで隠れている。

あれ、これって・・・

「もしかして、2人目?」
「シー、言わないで」

慌てて俺の口を塞ごうとする環。

そうか、そう言うことか。
数年前に結婚した環は先日長めの育児休暇が明けて仕事に復帰したばかり。
さすがにこのタイミングでの2人目妊娠は言い出しにくいんだろう。

「お願い、黙っていてね」
「ああ。でも時間の問題だぞ」
「わかっているわ」
少しだけ環の顔が暗くなった。

ごめんな環。
実は俺もお前に報告があったんだが、今は言い出せない。
もう少し時間がたって2人とも安定期になったら話すよ。
お互いに肉親の縁が薄い俺たちの家族が増える話だから、もっと明るく笑えるタイミングで話したい。


fin