side 敬

「帰ったら、パパのことを正直に話すわ」
俺の胸に抱かれたまま、真理愛ははっきりと言った。

「ああ、そうした方がいい」

このまま放置していても事態は悪化するばかりだろうから。
少しでも早く、大人に助けを求めるべきだ。

「もしまた困ったら、連絡しておいで」
「うん」
少しだけ、鼻にかかった涙声に聞こえた。

結局俺はまた、真理愛を泣かすんだな。



駆けて行く足音とともに、俺の体に伝わっていた温もりが消えていった。

門の前で一瞬足を止め、一つ息を吐いた真理愛がチャイムを鳴らすと、すぐに玄関が開いた。

出てきたのは二人。
色白で華奢な女性と背の高い男性。男性の方には俺も見覚えがある。
きっと、高城先生と真理愛のお母さんだ。

うなだれる真理愛、興奮気味に話す女性。
ただ黙って見守っている高城先生。
やはり真理愛は叱られてしまったらしい。
まあ、仕方ないだろう。
高校生の外泊なんて、褒められたことじゃないだろうから。

しばらく女性が一方的に話していたが、高城先生が女性の肩を叩き止めに入った。
そのまま真理愛も家の中に入って行った。

さあ、俺も仕事に行こう。
遅刻の連絡はしたが、忙しい週末の土曜日だから文句の一つも言われるんだろう。
俺も叱られる覚悟をしないといけないらしい。


やっと車を発進させ、ぐるりと高城邸の周囲を回った。

頑張れ、真理愛。
俺は心の中で囁いた。