「もういいから、泣くな」
泣き出してしまった私の横に座り、背中をトントンと叩いてくれる敬さん。
それでも、自己嫌悪真っ只中の私は動けないまま。

今のこの状況から、どうやら敬さんは私をお金で買おうとしたわけではないことがわかった。
敬さんがまともな人間だったことにホッとしたと同時に、お金のために自分の体を投げ出そうとしたことが恥ずかしくてすぐにでもここから消えてなくなりたい気分。
それに、私を買おうとしたのでないならば、30万円もの大金を何の見返りもなく貸そうと言った敬さんの本心もわからない。


「大丈夫、落ち着いた?」
「うん」

いつの間に用意してきたのか、暖かい飲み物が入ったカップを渡され私はやっと肩の力を抜いた。

「すまなかった。俺の言い方が君に誤解を与えたんだな」
「そんなこと」

勝手に誤解したのは私だし。
何よりも、簡単について行くような子だって思われたことが恥ずかしい。

「確かに30万円は大金だから、そういう見返りを求められると思っても当然かもしれないな」
「・・・ごめんなさい」
「何で謝るんだよ」
「だって」

全ては私が持ち込んだ厄介ごとだから。
敬さんは巻き込まれただけで、

「はい」
ポンとテーブルに置かれた紙の封筒。

「これって・・・」
「30万円あるよ」

なぜだろう、私は動けなかった。
私はこのお金のためにここへ来た。
自分の初めてを投げ出してでも、貸してもらうつもりだった。
でも、今は封筒に手を伸ばす勇気がない。
困ったな。どうしよう。