・・・
「真っ赤」
濡れた掌に包まれた頬が熱い。
シャワーのお湯もそれなりの温度のはずなのに、それに比べればぬるく感じてしまう。
「……真っ赤にもなる……」
あの後も延々続くのかと思うほど愛されたのに、やっと落ち着いたと思ってもまだ裸のままだ。
「何度も見てるし、さっきまで散々眺めて触ってたのに。寧ろ、今の方がただくっついてるだけなのにね」
――シャワー浴びてるってだけだよ?
「嘘。分かるよ。輝が裸で目の前にいるのに、それだけも何もないもん。なんで、今まで一緒に浴びなかったかって、そりゃこうなるから……だし」
「……っ……」
そういえば、なんて思う暇なかった。
シャワーの水音が小さすぎるの。
耳元で囁いた声だって小さいのに、全然掻き消されずにそのまま全部私の中に入ってくる。
「可愛い。びくってするのに、しがみつかれるの堪らない……」
甘い囁きのようで、それがすべてのような気がしてきた。
私を手に入れる為だけに、躊躇なく他人を利用して、結果どうなろうと気にも留めない。
モラルはもちろん、単純な労力としてもまったく見合わないのに。
不思議に思うこともなく、ちっとも罪の意識がない陽太くんを少しも怖くないと言えば嘘になる。
「も……もう……っ」
なのに私は、何度でもぎゅっとしがみつくんだ。
ビクッとするくらいには怯えてるのに、そのたびにぎゅっと。
「だって、可愛い。好き……ね、好きだよ。絶対、もう不安になることないからね」
わざと耳裏でくすっと笑った。
そんな意地悪されて、前科もあって。
「……信用できません……」
(……見張っとかなくちゃ)
これ以上、他人に迷惑をかけるわけにはいかない――側にいたいって、決めたのは私なんだから。
「うーん、それもそうだよね。行動で証明してくしかないよね」
――輝が大切だって。こんなに大好きだって……ね。
「そ、それはじゅうぶん……! 」
「そう? ……でも、俺が足りなくなってきちゃった」
(……もう、絶対一緒にシャワー浴びない……しばらくは)
キスひとつ、掌が這う範囲が増えるたびに条件が緩くなる。
「ん……っ……? 」
「……だめ。こっち……他のこと見ないで。聞かないで……」
気のせいだ。
ドアを隔てて、寝室にあるスマホが鳴った気がするなんて。
シャワーの音、陽太くんの声、キス……そんな音に覆われ、包まれ、聞こえようがない。
「輝。今度……」
「ん……? 」
意識を逸らさせまいと、そっと人差し指が頬を彼の方へ向けさせる。
「ううん。何でもない」
陽太くんはそう言ったけど、分かってしまった。
――もう片方の手で、薬指を撫でられたりしたら。
「あいしてる……本当にずっと」
しんじてる、けど。
「ビクビクしてる。大丈夫、もう意地悪しないよ。ね……」
その、「ね」は。やっぱり、どうしたって。
「“信用できません”? ……なら、まだ今は信じなくていいから……」
――ただ、堕ちておいで。
その可愛い悪魔の囁きが最後。
何が心配だったのか思い出せないくらい、ただ目の前のしあわせに溺れるしかなかった。
【意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!! おわり】



