意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!







あれから、自分の部屋よりも陽太くんのところに帰る方が断然増えた。


「おかえり。何ともなかった? 」

「大丈夫だよ」


本当に大丈夫。
でも、即答しないと陽太くんが迎えに来てしまう――来てくれるのは嬉しいけど、絶対彼の仕事に支障が出る。


「そんな慌てなくても。監禁なんかしないよ? 」

「……陽太くんが言うと、冗談に聞こえない……」


私は半分――もないけど、三割くらい冗談ぽく言ったつもりだった。
陽太くんが楽しそうにからからと笑って、ちょっとだけ意地悪にからかってくるのを想定してたのに。


「も、もう……! 」


くす……と目と唇の端だけで笑って何も言ってくれないのに耐えきれなくて、何でそこで黙るんだろうと抗議する。


「可愛いなって見てただけ。確かに、閉じ込めておきたいくらい可愛いし、好き。他の男に見せたくない……危ないしね」


そう。
あれから、もともと放任主義だったうちの両親も、さすがに心配になったらしく。
今まで用がなければ連絡なんてほぼなかったのに、しょっちゅう電話してくるようになった。
もちろん有り難いし、少しくすぐったくもあるけど、残業があったりするとなかなか返信できなかったりもして。


『今日、遅くなるの? 陽太くんにいてもらったら? 』


なんてLINEが続いたこともあり。
それなら、親を安心させる為にもおいでよ、って陽太くんが誘ってくれて――それを理由にここに帰ってきて、出掛けて、戻って――ぐずぐずとこの腕で過ごしてる。


「仕事行くなとか、家から出るなとか、さすがに言わないよ。そんなの無理だし、そんなことしたら、輝、逆に逃げちゃうでしょ。何度も言ってるじゃない。俺、輝に嫌われたくない。好かれたいんだ」

「……すきだよ」


安心する。
もう怖いことはないんだって、万が一そんなことが起きても、陽太くんがいてくれるって。


(……この前から、変だ)


甘くて蕩けそうで、頭の中も、身体の爪先までもふわふわしてるのに。
どこか――私の中に辛うじて残ってる何かが、ざわざわして消えない。


「知ってる。でも、もっと欲しくなっちゃう……」


『……やだ、もっと……あきちゃんが、もっと』


陽太くんにキスされると、昔の彼の記憶が戻って、少し悪いことをしてる気分になる。
あの頃の陽太くんは、すごく語彙が少なかった。


「輝、もっと……」


重なり方がひどい。
「変わってない」「ずっと好き」を可愛い声と今の掠れた声で、同時に言われた錯覚に陥る。


「……どうしたの」


意思とは別に、勝手に伸びた方の手首を握られ、指まで絡め取られ。


「今更、何に抵抗してるんだろ。可愛いな、もう……」


意味がわからない。
もう片方の手で耳から顎のラインを固定され、「可愛い」とキスを上から浴びると、もっと訳が分からなくなる。


「そんなことしなくていいんだよ。監禁も、酷いことも痛いこともしない。約束、破らないから安心して」


――何にも抗わず、堕ちておいでよ。


「……し、してない……」

「ん? してないの? ……そっか。無意識なんだね。女の子が男に襲われたら、たとえ相手を好きでも、身体はそうなるのかも」


抵抗してないんだね、って。
発言をリピートされ、自ら言ったことを確認させられ、頷かされる。


「……そうだった? 」

「知らないよ。だって、俺が襲うのは輝だけだから」


笑ってくれて、ほっとする。
もしかして、いくら私でも陽太くんの触れてはいけないところがあって――どこだか気づかないまま、触れてしまったんじゃないか――そう思って、ぞくりとしたから。


「嫉妬、可愛い。……おいで? ……なんて言うの、輝だけなのに」


来れるよね。
抵抗しないんだもんね。


(……ちがう……)


陽太くんは、そんなこと言ってない。
私だって、行きたくないはず、ない。


「よくできました。ご褒美……って、俺が貰うんだ」


さっきまで、ぴったりくっついてたはずなのに、急にできた微妙な空間が心許なくて、すぐ側に寄ったのを褒められた――ううん。
必要なら断られたのに、自分からその方向へ歩いてきたから褒められたんだ。

いつから意識してそっちにいたのか、寝室側に立っていた陽太くんの方へ。