「あー、緊張した」
「うちは、陽太くんなら大歓迎だって言ったじゃない」
帰り道、また手を繋いで。
それは家を出る前からで、親の前でも自然と手が近づいたのをバッチリ見られてニヤニヤされた。
「おばさんは、何となくそうかなって思ったけど。おじさんはやっぱり、すごく緊張するよ。女の子の父親って、想い強いと思うし。……今日、殴られるつもりで来たんだ」
「……決めてたんだね」
びっくりしたし、もし反対されたら。
陽太くんにひどいこと言われたら。
そう思うと怖かったし、ひやひやしたけど。
「言わなくてごめん。でも、言わなくちゃって思ったんだ。もしも後からバレたら大変なことになって、輝と会わせてもらえなくなるかもしれない。それに、輝の両親は、俺の大事なものに入ってる。輝が大事にしてることは、俺も大事」
そんなに変な顔したかな。
ぷっと吹き出すと、繋いだままの掌にゆっくりと唇を押し当てた。
「“私以外に大事なもの、あるんだ”って顔。輝、だいぶ俺に慣れてきたね」
「そ、そんなこと……! 」
思った。
うちの親も、ただの生物じゃないんだって。
「輝をつくってくれた人たちだしね。もちろん、俺もお世話になったから。こうして輝の彼氏としても受け入れてくれて、感謝してる」
「……本当は、たくさんいると思うよ。陽太くんが大切で、受け入れたいと思ってる人」
ほら、また。
陽太くんが言ったみたいに、私、手放すふりをして寂しそうな顔してる。
「かもね。でも、輝以上に俺を想ってくれる人はいないし、そうであってほしいな。それに、もしも他に誰かいたとしても、俺が受け付けるの、輝だけだから」
「うん……そう」
陽太くんが「普通」の世界にいないのなら、私が彼の世界に行けばいい。
そう思える人は、他にも大勢いるのかな。
だとしたら、やっぱり寂しい――そう思う時点で、私の世界も全然普通じゃないのかもしれない。
「輝って、変なヤキモチ焼くね」
言われてしまった。
陽太くんに、変だなんて。
「……普通じゃないかな」
「うーん? ま、俺が普通なんて語れないけど。素の俺を好きになってくれたこと自体、変かも。……ほら、また拗ねてる」
変じゃない。
いっぱいいる。
そう思って膨れてたのか、その頬を指先が捕まえて。
「そんな変な子、輝しかいないよ。いたとしても、俺がいらない」
道端、実家付近。
私や陽太くんの家のある地域よりは田舎で、他に人はいない。
それでも、こうやって頬を上げられて見下ろしてくる瞳の色を見れば、次にどうされるかなんて予測した瞬間熱くなる。
「本当に、最高に可愛い……。輝の反応は可愛いけど、他に同じことされたって、こんなふうにならない。分かってるくせに」
「……こんな、ふ」
「そう。こんなふう……」
外でキスされて、もう羞恥よりも安堵してしまうの。
期待どおりのことが起きて、ほっとしてる。
重なっては離れ、重なって。
何度もなんども――……。
「ひなたく……? 」
想像に反して、やや間が空いた。
不安になって目を開けると、彼の目は別のどこかを見ている。
視線を追っても、そこには何もない。
ただの原っぱ。
「ごめん。やっぱり、この辺懐かしくて」
また、同じ顔してる。
「私以外に」って。
自分じゃそんなこと言えないけど、でも。
「そんな顔させてごめんね。……お待たせ」
(……いつものこと、なのに)
――わざと照れる言い方をして、キスで誤魔化された気がした。



