意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!







「それにしても、よかったわ。陽太くんがいてくれなかったら、大変なことになってたかも。気をつけなさいよ。物好きっているんだから」

「……本当にもう見かけてないのか? そういう時くらい連絡しなさい。まったく」


手土産のケーキに紅茶、リビングには両親。
全部揃った顔合わせの場に、最初こそ緊張したけど。


「輝は可愛いですよ。だから、すごく心配で。俺が気をつけとくので、安心してください。何かあったら、俺からも連絡しますし。輝は、心配させたくなくて気を遣っちゃう方だから」


再会してからの話をざっと、でも丁寧に二人に説明してくれた。

あのことも。


『……輝が疎遠になったのは、俺が酷いことしたから。本当にすみませんでした……! 』

『陽太くん……!? 』


お母さんが「輝が彼氏連れてきたわよー」って、リビングに入るなりお父さんに言って。
はじめ、怪訝そうにしてたお父さんが、陽太くんだと分かって、せっかく頬を緩めたところでそう申告して頭を下げるなんて。
必要ないのに、わざわざ怒らせるようなこと――でも、誠実な対応に、両親も好感を持ったみたい。


『ひ、陽太くん……そんなの、いいよ。っていうか、そんなことしたらやだ……』

『だめたよ。だって俺、これからずっと輝といたいんだ。本気で、結婚を前提にしたい……してるんだよ。なのに、嘘吐けない』


あんなに頑なな陽太くんは、初めてかもしれない。
あたふたしてる私が止めても、やめてくれなくて。


『……とりあえず、座りなさい』


お父さんがそう言ってやっと、びっくりしたみたいに顔を上げてくれた。



・・・



「昔、散々守ってもらったから、今度は俺の番。ね」


ケーキ、喉に通らない。
生クリームもスポンジも上手く飲み込めなくて、紅茶で流し込む私に優しく笑う。


「そうしてもらえると安心だな。いくら輝の方が強くても、一応女の一人暮らしだし」

「あ、おじさん酷いですよ。俺だって一応成長して、男なんだから」

「いや、安心してるよ。もちろん、陽太くんはすっかり大人になってるから」


「酷いことした」の言葉に顔が強張ってきたお父さんも、陽太くんの正直さが伝わったみたいで、もう普通に話してる。


「輝は強がりだけど。本当はすごく繊細。俺、昔から知ってるから……輝が言い出しにくくても、他の誰より早く気づける自信あるんです。絶対、守るし……大切にします。……させて、ね」


苺がポロッとフォークから落ちた。
三人で話してるなか、必死にケーキに集中してたのに。
急に私の方に目が向いて、口調も私用になって、一気に雰囲気が激甘になる。


「いいわねー、輝は。彼女の両親の前で、こんなに素直に愛情表現できる男の人いないわよ」

「俺が輝にベタ惚れなの、昔からだから。今更隠すことも、隠しようもなくて」


お父さんの咳払いと、お母さんの囃し立てる声と。
そこでどうして、そんなに爽やかになれるんだろうっていう陽太くんの笑い声。
全部、ちっとも慣れない。


「懐かしいわね。陽太くん、こっちに引っ越してきてから、ずっと輝と一緒だったでしょ。だから、二人でいるのを見れなくなった時は変な感じだった」


(え……? )


「そうだな。あの頃も、もしかしたらって思ってたけど。本当にこうなるとはな」


今、何かがどこかに引っ掛かった気がする。


「うーん。俺は、あの頃既に本気でしたよ。絶対、輝と結婚するって思ってたし、何度もプロポーズしたし。あの時は、何かさらっと流されちゃった気もするけど……今は流されてあげないです。ね、輝」

「……な、流してないよ! 」

「うん。今日、連れてきてくれて……幼なじみのひな、じゃなくて、彼氏として紹介してくれてすっごい幸せ。ありがとう」


甘い。
苺が酸っぱすぎるくらい、他のものが甘い。
でも――……。


(……何か、変だ)


どこをどう見たって、幸せな画だ。
なのに私、今。

――何にモヤモヤしてるの?