「おい、ボーッとしてんじゃねぇ」

「…………」

「ありす」

 7月5日の朝。揺れ動く電車の出入り扉の横で氷雅(ひょうが)お兄ちゃんに何度も声をかけられた。

 私はハッとする。

「…ごめんなさい、半分寝てた」

 今日の電車内はサラリーマンや学生達はいるけど少し空きがあって、
 後ろから押されることもなく、薄いブルーの半袖シャツを着た氷雅(ひょうが)お兄ちゃんは私の前に立っている。

 氷雅(ひょうが)お兄ちゃんは早く寝たおかげで昨日から元気。
 私は2日連続で眠いけど…。

「寝てたじゃねぇよ。昨日も今日も」
「ほんとに大丈夫かよ?」

「あ、大丈夫。ちょっと勉強してて寝不足で…」

 ほんとは昨日も今日も興奮して眠れなかっただけ…。

 月沢(つきさわ)くんに早く会いたい。

 だけど、眠くて……。

 ぐらっ…。
 私は前にいる氷雅(ひょうが)お兄ちゃんに倒れ掛かる。