「…惚れた女の為なら、例え別れてもなんでもするってか」
「…食えねぇ奴だ」
 氷雅(ひょうが)お兄ちゃんはボソッと呟く。

「え?」

「なんでもねぇ」

 氷雅(ひょうが)お兄ちゃんは黒のバイクのシートとリアシートに触れる。
「乾いたみてぇだな」
「他はまだ少し湿ってはいるがまぁ大丈夫だろ」

 氷雅(ひょうが)お兄ちゃんは黒いヘルメットを私に手渡す。

「帰んぞ」

「うん」

 黒いヘルメットを被り、顎下のハーネスのベルトを首元で固定するとシールドを降ろし、自分でリアシートに(またが)った。

 氷雅(ひょうが)お兄ちゃんも軽々シートに跨るとキーを(ひね)る。

 甲高い爆音が響き渡り、私はぎゅっと氷雅(ひょうが)お兄ちゃんの腰に両手を回すと、
 輝く夜空の下で、黒のバイクが走り出す。

氷雅(ひょうが)お兄ちゃん」

「あ? なんだよ?」

 私はぎゅっと氷雅(ひょうが)お兄ちゃんの腰に回した両手の力を強めて満面の笑みを浮かべると、小さな声で呟いた。