青に染まる

 例えば一度小学校の頃、転校を経験した。

 兄貴のクラスはいじめ問題が如実なクラスで転校生いびりがあったらしい。そんな中、彼は嫌がらせを全てスルーした。媚びたわけではない。持ち前の懐の広さで気に留めなかったのだ。

 その後クラスがどうなったか詳しくは知らないが、噂によれば、いじめっ子たちが精神的に狂ったらしい。兄貴のせいかはわからないが、彼の性格が一役買ったことは否定できない。

 優しさは時に残酷だ。何もかもを許してしまうと、悪いことをしている自覚のある者は許されているのだと倒錯し狂う。または罪悪感に押し潰されて、狂う。

 そう、優しさは時に人を狂わせるのだ。

 兄貴の優しさは人の心を安らかにするものだ。がずっと何もかもに対して優しいままだとしたら、いつかどこかで誰かを壊す。そして彼も壊されてしまう。

 そんな予感が頭の中で渦巻いている。

 兄貴の話す西園とやらが、実は悪人だったら。春子という女が何かを企てていたら。夏帆が馬鹿の仮面を被った狡猾な人間だったら。

 可能性は考えれば考えるほど、不安となっておれの心を押し潰す。きっと誰かの(たが)が外れた瞬間、彼は傷つけられるのだ。仮に兄貴が傷つけられなかったとしても、兄貴はその誰かのために罪悪感に苛まれるだろう。彼が傷つくのは、正直嫌だ。

 だから兄貴が傷つかないよう、傷つける要因となるものをおれは把握しておかなければならない。彼が傷つくことのないうちに、そいつが壊れたらそっと縁を切らせるのだ。どんな手段を使っても。