青に染まる

「でね、秋弥くんがね」
「兄貴さっきからそいつの話ばっかり」

 不機嫌な我が家の王子様に僕は学校であったことを語り聞かせていた。ちょっと理不尽に思ったのでむっとする。

「哀音が、『学校であったことを話してほしい』って言い出したんでしょう?」
「そうだけど……同じ話を五回も六回も繰り返すとか……老人かよ」

 はて、そんなに繰り返しただろうか。まあ、確かに話のテーマはずっと「後輩が可愛い件について」だったが。

「でも本当にいい子なんだよ? 秋弥くん」
「いつの間にか名前呼びになってるし……」

 名前呼びなぁ。そんなにいけないことだろうか。ほとんど初対面から春子さんや夏帆さんは名前呼びだったから、僕としちゃ遅いくらいなんだけど。

「親しく感じるから好きなんだけどな、名前呼び」
「そうか?」

 我が弟は猜疑(さいぎ)的だ。

「小学校とか中学校とかならまだわかるさ。でも高校生だぜ? 普通苗字とかじゃない?」
「それは人それぞれじゃないかなぁ」

 確かに小説や漫画で描かれる高校生は名前呼びより苗字呼びの方が圧倒的に多い気がするが、それが全て現実に当てはまるとは思えない。それに秋弥くんの場合は苗字呼びから入っているし、何か問題があるのだろうか。

「兄貴の懐の広さにおれは感嘆するよ」
「ありがとう」
「褒めてない」

 あれ?懐が広いは褒め言葉じゃなかったっけ?

「何がそんなに不満なのさ、哀音」
「別に」

 哀音がちょっとそっぽを向き、口元に手を当ててぼそぼそという。

「別に兄貴が高校に馴染んで楽しそうにしているのが羨ましいとか妬ましいとか思ってないし」

 ちょっと哀音さん、言っちゃってますよ。全部声に出ちゃってますよ。全く、ツンデレさんで可愛いんだから。

 僕は哀音の頭をくしゃくしゃと撫でる。哀音はくすぐったそうに肩を竦めた。

「んだよ? いきなり」
「哀音ってば可愛いー。つまり嫉妬?」
「んなっ」

 頬が上気している。