青に染まる

 ほっとしている僕の胸元で、哀音は頬擦りをしてくる。その姿はなついてすり寄ってくる子犬のようだった。可愛い。弟をペット感覚で見るのはどうかと思うが。

 彼の頭を優しく撫でてやる。さらさらした髪は手入れが行き届いており、指通りがよく心地よい。哀音もすりすりとしてくるから可愛い。

「……安心してよ。僕はどこに行ったって、誰と喋ったって、哀音のお兄ちゃんであることに変わりはないからさ」

 そう声をかけると彼はほっとしたのか体から力を抜き、僕に体重を預けてくる。その温もりに、どこか安心していた。

「そう、だよな……」

 掠れた声で哀音が言う。

「何があろうと、兄貴はおれの兄貴だよな……たとえ目の色が違ったっておれは兄貴のたった一人の弟で、兄貴はおれのたった一人の兄貴なんだよな……」

 涙に震える声に、不穏なものを感じた。珍しく眉間にしわが寄っていくのがわかった。

「学校で何か言われたのか?」

 声に険が滲んでしまうのがわかる。けれど、これは重大事だ。彼は僕の胸元で、小さく頷いた。

「目の色が違うし頭の出来も違うから、血なんて繋がっていないんじゃないかって……。兄貴の目は覚醒遺伝で、頭の出来は後天的に変わるものだって論破したけど、でも不安で……っ!」

 僕は腕の中で震える素直に泣けない弟を、包み込むように抱きしめた。その泣き顔を誰にも見られないように。

 悔しかっただろう。苦しかっただろう。それを飲み込んで仕返しする辺りさすが哀音だが、それでも怖かったにちがいない。自分の今、最も信じている存在が否定されたなら。

 遺伝子検査なんかが手続きを踏めばさくっとできてしまう今では、血の繋がりの有無なんてあっさりわかってしまう。けれど、「兄と本当に血が繋がっているのか確かめたい」と言い出せなかったのだろう。確かめたいということは、疑っているということになるのだから。きっと一寸たりとも、僕との繋がりを疑いたくなかったにちがいない。

「怖かったね、辛かったね。──よく、頑張ったね」

 僕は彼の背中をさすりながらそう告げた。哀音は、声を殺して泣きじゃくった。