青に染まる

 それから西園くんと水やりをして、今日は解散となった。最後までしっかり敬語だったものだから少し感じている距離感の違いを悲しく思ったが、また次に一緒にやるときには敬語を外してもらうよう提案しよう。

 世の先輩後輩がどうしているのか、僕は知らない。別段世の中の常識の軛にばかり囚われる必要はないと思う。せっかくできた友達と壁を作りたくはないしね。

 るんるんで帰宅すると、今日は台所に母さんはいなかった。代わりに、哀音の部屋の前で何事かを話している。その扉は、固く閉ざされていたが。

 反抗期。僕はなかったから全く理解できないのだけれど、無条件になんだか親が嫌になるという現象らしい。

「哀音、勉強したの?」

 扉の向こうに語りかける母の言葉は一般家庭のお母さんが口にするものと相違なかった。けれどこういうのが気に障るんだろうなぁ、と思う。僕ならともかく、哀音は勉強ができて学年トップなのだから。

 人は頑張っているのに「頑張れ」と言われると傷つく。最近ではもはや常識だ。既に頑張っているのに、これ以上何を頑張れというのか。つまり母の改善すべき所は、声のかけ方だと思う。

「ただいま、母さん」
「あ、相楽」

 僕を見てあからさまに救世主が来た、みたいな顔をする母。少し情けないと思う。事実、この家の中で彼とまともに言葉を交わせるのは現在僕だけ。苦笑いを浮かべる。

「また喧嘩?」
「喧嘩ではないわ。哀音がちっとも返事をしてくれないの」

 なるほど。それでは喧嘩は成立していない。

「気がつくと部屋に篭りきりになっているから、心配で……」
「……だってさ。哀音、うんとかすんとか言って安心させてごらんよ」

 冗談混じりに言うと、数秒の沈黙を持った後扉の向こうからぶっきらぼうな声が聞こえてくる。

「うん、すん」

 これはコメディだったのか。
 僕は噴きそうなのを必死にこらえながら、母に向き直る。

「ほら、哀音ちゃんと反応したから安心してよ」
「そうね……」

 まだ不安そうな母に一押し。

「ねね、今日の夕飯何?」
「……そうねぇ、きんぴらごぼうを作ろうかと」

 すると母は「あっ、夕飯の仕度をしなくっちゃ」と扉の前からいなくなる。しめしめ。話題を変えると流されやすいのがうちの母の特徴だ。