「わたしは好きだよ、森川さんの目。宝石みたいできれいだもん」
井上さんが大きな黒目を細めて、にっこりと微笑んだ。
ーーありがとう。
そう言ったつもりが、ほとんど声にならなかった。
きれいなんかじゃない。
あなたたちの黒い瞳のほうが、わたしはずっと羨ましいよ。
2人が席に戻ってから、心の中でそうつぶやいた。
『なんであおのちゃんの目って青いの?』
小さい頃から、何度もそう言われてきた。
なんで目が青いかなんて知らない。
生まれたときから青かったんだから。
『ひとりだけみんなとちがうよね。変なのー』
それは、知ってる。
クラスにいる誰もが同じ色の目をしているのに、わたしだけが違う。
お父さんとも、お母さんとも違う。
わたしだって、みんなと同じになりたかった。
青い目なんて、大嫌いだ。
言ったほうは、昔自分が言った言葉なんて、とっくに忘れているだろう。
だけど、言われたほうは忘れられない。
何年経っても、ずっと覚えている。
心ない言葉をかけられるたび、癒えない傷を抉られる。
押し殺し続けた感情はどこにもいけない。
心に冷たい雪が積もるように、どんどん深くなる。

