シオを抱きあげたとき、小さくて、軽くて、まるでぬいぐるみの猫みたいだと思った。

痩せ細っていて、毛は固くごわごわしていて、何年も忘れ去られて放っておかれたかわいそうなぬいぐるみ。

だけどその体には、ちゃんと温もりがあった。

『うちにおいで』

お母さんはそう言って、小さなシオを家に招き入れた。

あの日から、シオはわたしたちの家族になった。

10年間、ずっと一緒だった。

わたしはシオの言葉がわからないし会話もできないけれど、通じあっていると思っていた。

でも、シオは突然、何も言わずに家を出て行ってしまった。

何度もシオの夢を見ては、同じことを問いかけた。

ーーどこにいるの?

ーーどうして突然いなくなったの?

問いかけには答えず、シオの背中は遠ざかっていく。

もう振り向かないとわかっている。

何も答えてくれない。
言葉が届かないのがもどかしい。