「いってきます」

玄関で靴を履きながら言う。

「いってらっしゃい。気をつけてね」

お母さんに見送られて扉を閉める。

外は一面の雪景色。
真っ白な世界に、朝の光が降り注いできらきらと輝いている。

雪だるま、つくれなかったな。

雪はどこまでも続いているけれど、手を冷たくしてひとりでそんなことをする気にはとてもなれない。


ふと、庭の隅に目をやって、わたしは足を止めた。

こんもりと山のように盛られた雪のうえにあるものを見つけた。

雪だるまだった。

小さな、猫の形をした雪だるま。
目のところに、青いビー玉がふたつついている。


「ーー紫央」


わたしはその場に座り込んだ。

その瞬間、堪えていた涙が目からあふれた。


昨日の夜。
みんなが寝静まったあと、紫央はひとりで雪だるまを作って、家を出たんだ。


「約束、守ってくれたんだね」


どこまでも澄み渡る青い空の下、小さな猫の雪だるまの前で、わたしは涙を流した。