「わたしは、ずっと泣いてたよ。急にシオがいなくなって、どこを探しても見つからなくて、どうして出て行ったのかわからなくて……」

この公園も、街も、いるはずのないような場所まで、もしかしたらどこかにいるかもしれないって。

ずっと願っていた。


もう一度会いたい。


どんな姿でもいいから。


「結局、泣かせちゃったね」

紫央がわたしの涙を指で拭う。

「探してくれて、ありがとう。見つけてくれてありがとう。蒼乃は強いし、ひとりぼっちなんかじゃない。蒼乃のことを愛してくれるお父さんやお母さんや、優しい友達や、温かい人たちが、たくさんいるから。だから、ぼくがいなくなっても、もう大丈夫」

わたしは泣きながら首を振る。

いなくなってほしくなんかない。

ずっと一緒にいたい。

これでお別れなんて嫌だよ……。


ねえ蒼乃、と紫央が言う。


「おばあちゃんが教えてくれた言い伝え、覚えてる?」

わたしは涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげた。

「……うん、覚えてる」


『猫は9回生まれ変わる。3回は遊びに、3回は放浪の旅に、3回はじっとしていることに費やすんですって』


「あの言葉を聞いたとき、ぼくは嬉しかった。また蒼乃に会えるんだって、そう思った」

「……でも、旅に出るんじゃないの?」

「それなら、蒼乃と一緒に旅に出るよ」

旅に出るときも。

遊びに行くときも。

家でじっとしているときも。

「たとえ9回生まれ変わっても、ぼくはきっと、君に会いに行くよ」

「紫央……」

「だから、帰る場所がわかるように、その鈴を持っていて。ぼくはこのマフラーを持っていくから」

プレゼントには思いがこもる。

大切な誰かを思いながら選んだものだから。

だからきっと、2人の思いも繋いでくれる。


「絶対、帰ってきてね」

「うん。約束する」

ああ、これで最後なんだ、と思う。

わたしは精一杯の力で紫央を抱きしめた。


手の中の紫央の感触が、ゆっくりとなくなっていく。


「紫央……ありがとう」


紫央は青い瞳を細めて笑って、
わたしの前から消えた。