たとえ9回生まれ変わっても





学校が終わると、真っ直ぐに家に帰った。

寄り道なんてしている余裕はなかった。

家に帰って鞄を置くと、制服を脱いでエプロンを巻きつける。

ばたばたと1階に下りていって、店の扉を開けた。

店にはお客さんが3人いて、パンを選んでいる最中だ。

1人がトレーを手にレジへ持っていく。

「これお願いね」

「ありがとうございます!」

紫央が笑顔で答える。

「ただいま」

厨房にいるお母さんに言った。

「おかえり、蒼乃。今日はやけに早いわねえ」

「お父さんは?」

「いま常連さんのお店に配達に行ったところよ」

「じゃあ、わたし、お店に出るね」

「ほんと? 助かるわ。いまお店忙しいから、紫央くん手伝ってあげて」

「うん。わかった」

接客は苦手だ。

人の前に出ると緊張してしまう。
お客さんに向かって笑うのなんて、もっと難しい。

わたしは要領が悪いし、お父さんや紫央みたいに上手に笑ったりできない。

パンを作るのだって決して楽なことではないけれど、人と顔をあわせない厨房にいるほうがずっと気が楽だった。

でも、苦手なことからずっと逃げ続けているのは、嫌だから。

それに、いまはーー

「あっ、おかえり蒼乃」

紫央が気づいて、にっこりと笑いかける。

「ただいま」

わたしは言った。

動機が不純な気がするけれど……。

恥ずかしいとか、苦手だという感情がどこかに行ってしまうくらい。

いまは少しでも、紫央の近くにいたいんだ。