たとえ9回生まれ変わっても



「蒼乃っ!」

いつの間にか、紫央がベランダに出ていた。
冷たい風が窓から入ってくる。

わたしは寒さで体を縮めながら、なんだろう、と窓のほうへ歩み寄った。

「見て。月がきれいだよ」

紫央が夜空を指して言った。

ベランダに出て空を見上げると、真っ暗な空に、まん丸い月がぽっかりと浮かんでいる。


空が暗いせいか、やけに月の輪郭がくっきりと、大きく見えた。


「ーーほんとだ」


吐く息が闇に白く溶けてゆく。


寒い夜。

となりには紫央がいる。


「ずっとこうしていたいな」


紫央がぽつりとつぶやいた。


うん、と紫央がうなずく。


「ずっと、ここにいられたらいいのに」



わたしは胸がギュッと締めつけられた。



ーーずっと。


それって、ずっといられない、ってこと?


ずっといてよ。
そう言いたかった。

でも言えなかった。

やっぱり紫央は、いつかは出て行くつもりなんだ。

紫央の中では、それはもう決まっているのだろう。


それがいつなのか、わたしにはわからないけれど、そんなに遠くはないような気がした。


根拠はどこにもないけれど、根拠がないから余計に不安になる。



何も言わずにいると、泣いてしまいそうだった。


でも、いつなのって、聞く勇気すら、わたしは持てない。



「もうすぐクリスマスだね」


紫央が月を見あげてつぶやく。

ベランダの柵に手をかけて、ここではないずっと遠くを見据えるように。



「クリスマスってなんとなくわくわくするよね。ツリーとか、プレゼントとか、楽しいことがいっぱいで」


「……うん」

紫央は何かを言おうとしているような気がした。

だけど、口にするのを迷っているみたいだ。


街の灯りは、家のベランダまでは届かない。


楽しげな音楽も、楽しげな人の声もなく、月明かりだけがわたしたち2人を照らしている。


ねえ紫央ーー


いま、何を考えてるの。


ほんとうは何を言おうとしているの。


いったい何が紫央をそんなに寂しい顔にさせているの。


誰にも言わないから。
わたしにだけ教えてよ。


もう、大切なものを失いたくない。


あんな悲しい思い、もうしたくないよ……。