家の前に、人が立っているのが見えた。
夕暮れの中に立つ人影は、こっちに向かって大きく手を振る。
「おかえり蒼乃っ!」
紫央が抱きついてきて、わっ、とわたしは自転車ごと倒れそうになった。
「もう、危ないなあ」
わたしは自転車を立てながら言った。
紫央は何回言ってもお構いなく突然抱きついてくるから、わたしはいちいち動揺してしまう。
「早く来て」
「う、うん」
紫央はわたしの手を引っ張って家の中へ連れて行く。
2階にあがると、お母さんとお父さんが待ち構えていた。
「蒼乃、誕生日おめでとう!」
「わ、ありがとう」
わたしは照れ臭くなって笑う。
12月10日。
わたしの誕生日は、毎年家でお祝いをする。
いつもはお父さんもお母さんも、遅くまで仕事をして、夜ご飯を食べて、食べ終わったら休憩する余韻もなく明日の仕込みに戻ってしまう。
同じ家の中にいるのに、家族で一緒に過ごす時間は、ものすごく少ない。
だけど1年で1度、わたしの誕生日だけは、次の日が定休日じゃなくても、必ず家族でゆっくり過ごす時間をとってくれる。
だからわたしは、小さい頃からこの日が好きだった。
お父さんとお母さんが、わたしのためだけに時間を作ってくれる日だから。
照れ臭いからわざわざ口にしたりはしないけれど、わたしにとっては毎年、それが何よりのプレゼントだった。
今年の誕生日は紫央も一緒だ。
それだけで、わたしは嬉しくなった。