目をこすりながら、「うん、うん」と何度かうなずいた。
何とかしないととあたりを見回していると、鞄の中でスマホが震えていた。
ディスプレイに映し出されたのは、先ほど連絡先を交換したばかりの楓君だった。
「も、もしもし? 楓君?」
「美鈴ちゃん? 今お店に確認して予約とれたから。今地図送るね。
涼也は? 来るって?
まあ僕としては二人きりのほうがいいから、来なくてもいいんだけど。ははは」
なんて楓君は冗談交じりでのん気に笑っている。
「……」
「美鈴ちゃん?」
「……楓君、どうしよう」
「どうしたの? 泣いてんの?」
「涼ちゃん、すごい熱で。熱あるのに、ずっと我慢して仕事してたみたいで。
動けそうもなくて」
「え? ……わかった。そこからだと涼也の家、車で十分ぐらいだから。
俺タクシー呼んどくし、涼也の家に向かって」
「う、うん。わかった」
私は涼ちゃんの荷物と自分の荷物を手に持ち、涼ちゃんに背中を向けてしゃがんだ。
「涼ちゃん」
「え?」と私を見た涼ちゃんは、一瞬ぎょっとした顔をした。
「な、なに?」
「乗って。今日は、私が涼ちゃんを負ぶる番だよ」
力をこめてそう言ったけど、いっこうに背中に重みを感じない。
不審に思って振り返ると、涼ちゃんは壁伝いに移動し始めていた。
「涼ちゃん、こういう時ぐらい私を頼ってよ。
私、涼ちゃんのこと支えてあげたいんだから」
「あのなあ、支え方が間違ってるから。
体力ゼロの美鈴が、その荷物持って俺を負ぶれると思う?
そんな奴に、自分の身を預けられるかよ」
涼ちゃんは息を荒くしながら私に厳しい言葉を送る。
その言葉は的を射すぎて反論できない。
だけどほっとけない。
私は涼ちゃんの腕を無理やりとって、自分の肩に乗せた。
「私だって、力になりたいんだから」
涼ちゃんはもう何も言わなかった。
私の肩に素直に体を預けてくれたのが、その重みでわかった。
私は涼ちゃんの体を支えながら、なんとか引きずるように歩いた。


