控室の扉が並ぶ通路には、もう何もなかった。

仕事中はあんなにも荷物がごった返して、人がせわしなく行き来していたのに、通路はがらんとして、物音ひとつ聞こえない。


「誰もいないね」


思わず出た私の声は、長い通路にかすかに響いた。

そのかすかな反響の中に、涼ちゃんの声が混ざった。


「何してたの?」

「え?」

「戻ってくるの遅かったけど、何してたの?」


涼ちゃんはすたすたと歩きを止めることもせず、まっすぐ前を向いたまま尋ねる。


「ああ、えっと。楓君と話してて。今日、すっごく助けてもらったから、
改めてお礼を。

 モデルの仕事をするのも、あんなにたくさんの人に注目されるのも初めてで、その中でカメラ向けられて、すっごく緊張してたんだけど、そんな私の緊張を楓君が一生懸命ほぐしてくれて。

 はじめは不安しかなかったけど、だんだん楽しくなってきて。

 こんな気持ち、初めてで。

 でも、なんとかいい写真が残せてよかったよ。

 モデルの代理が私なんかでいいのかなって思ったけど、ほんと、楓君のおかげだね」


「ふーん」と涼ちゃんはそんな返事しか返してこない。

また、空気が重くなる。